いざこざの外

被告人については家族席が確保されますが、証人で出廷される人に関しては
例えそれが直接事件に関係する人物であっても、特に席を確保される事は
ありません。その為、私は休憩の時に帰る人がいないかを待ったのですが
長岡氏が弁護士に声を掛けて席の空きを聞いて下さったお陰で、松文館の
社員が席を譲って下さいました。今考えても、恥ずかしい話です。
確実に話しを聞ける様に、予め席の確保を誰かに頼んでおけば良かったのに
満員という事態を全く想定していなかったのは大失敗でした。

旦那の証言が始まります。
他の人達と違い、旦那は普段通りという口調で証言を進めていきました。
正確に答えようとする為かヒヤヒヤする程の間が空き、質問に対する答えも
饒舌な説明はなく、最低限の答えのみ。「特に」「別に」という言葉も
たびたび登場しました。声が上ずるでもなく、いつも通り。本当にこの人は
いつでも自然体なんだと、ある意味で感心しました。

旦那の証言の中で大きなポイントとなった事がいくつかあります。
まず旦那は出版関係者に任せていれば間違いは無いだろうと、修正に関して
一切を任せていたということ。そして旦那自身は「わいせつ」と「いやらしい」
の定義を曖昧なままで事情聴取を受けていたこと。自分の描いた漫画を
わいせつと認めて罰金刑を受けた背景には、早く勾留を解いてもらって
帰ろうとしたこと。

以前にも描きましたが、旦那はイラストレーターとしての仕事がメインでしたが
会社倒産を受けてエロ漫画家としての活動を始めました。絵を描く事に関しては
素人ではありませんでしたが、漫画に関しては編集長との打ち合わせを重ねてました。
「SMや強姦を」「絵柄についてはリアルに」そんな指示が出ているのです。
そして以前に私も気になって聞いたのですが、どうしてモザイクのかかる
性器描写までリアルに描くのかというと、連載前に見本でもらった雑誌は
モザイクが透ける形で性器が見えていたからだそうです。そうなると手を抜け
ないから、同じ画風で描いていただけなんだけどね、と旦那は苦笑していました。
無修正の原稿を渡すのは、ある意味で当然の話しと言えば、当然なのでした。
そして成年漫画という特性上、いやらしいモノを描こうとはしていた。
旦那は警察が言う「わいせつ」を「いやらしい」の堅い表現とか延長線上に
ある言葉と認識して使っていたから、余計に話しは面倒な事になっていたのです。
警察は「わいせつ」の定義を説明しないまま、旦那に漫画のわいせつを認め
させている。旦那は「エッチなもの、いやらしいもの」として、わいせつを
認めますが、後になって法で言う「わいせつ」の定義を改めて知ることになる。
そういう事だったのです。

検察が旦那の作品に対して、こんな質問をしました。
「全部想像したものなんですか？ご自分の性的体験を元にしていることはありますか」
本当に腹が立ちました。旦那は既婚者だし、妻という私の存在があります。
ある意味でひどく夫婦の私的な事に踏み込まれた気がしました。漫画の事は
自分の性生活を描写しているんじゃないのか？そういう言い方に聞こえたのです。
何かい？私は毎回、旦那に強姦やSMプレイをされてるってのかい？
性的体験が皆無である訳ないんだから、ある程度は表現に自分の体験は入って当然だろが
えぇ？それともお前は、異性との経験全部が悪いって言いたいのかい？
日本人全てが処女懐胎すべきと思ってるんじゃねぇだろうなぁ？
と、こんなべらんめぇ調の勢いで、１人わなわなと怒りに震えていました。
この不快感を理解してくれたのは、ごくごく一部の人達だけでした。
怒る私が神経質なのでしょうか？

ちなみに。旦那は漫画を描く際、身体の線を参考にする為に写真集やグラビアを
見ることはありますが、他は資料として見ることは滅多にありません。
当然、私がモデルになる様なこともありません。