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カテゴリ:旅行生活
「バラナシは今日も雨だった」の巻 今回、当初の計画では「バラナシ」に行く予定はなかった。ただ、旅のルートを検討していると、たった8日間という限られた日程をフルに使い切ろうと思えば、当然陸路だけでなく空路での移動も選択肢に入ってくる。しかも、現在インドの国内線は新興の格安航空会社の参入が相次ぎ、6社ほどが低価格競争にしのぎを削っている。中でも、「エアデカン」と「スパイスジェット」の2社は、とんでもない低価格をウリにしている。それで、スパイスジェットの予約サイトで偶然見つけたのが、この「デリー⇒バラナシRs.99」という驚異のキャンペーン。東京-大阪間を超える距離がたったの99ルピー。日本円にしてなんと「300円」である。なんですかこれは。何かの間違いかと思って何度も見直したが、どうやら本当らしい。これは行くしかないだろうということで、急遽バラナシ行きがルートに組み込まれたのであった。まぁ一応オチはあって、運賃は99ルピーだが、税金と燃油サーチャージ代が別途4000円ほどかかるので、結局そっちの方が高かったりするのだが。 スパイスジェットの内装は極めて簡素で、座席も事務イスのような塩ビ製のシートなのだが機内は清潔。客室乗務員も若くてキレイどころが揃っている感じ。ただし格安料金と引き換えに機内サービスは皆無に等しく、機内食はキャンディーのみである。まぁ1時間そこらのフライトで機内サービスなんて必要ないので、まったく問題はない。バラナシまではあっという間で、機体が次第に高度を下げると、上空から見るバラナシはあいにく雨模様である。おまけに出発が遅れたせいで、もう時刻は夕方の5時半。日没が近づいている。小雨が降りしきる中、スパイスジェット機は「ドスン」という衝撃とともにバラナシ空港の滑走路に降りた。 空港から市内へとプリペイドタクシーに乗ると、さっきまで空港にいた職員のおっさんたち3人が狭い車内に一緒に乗り込んでくる。なにかと思ったら「今日はこれが最終便なんでワシらももう帰る。途中、家まで乗って行っていいか?」ということなので、「じゃあワリカンね」と言うと、「ふぉっふぉっふぉ」と笑うだけで結局便乗犯たちはそれぞれ自分の家の近くで降りていってしまった。まぁインドだからな。しょうがないよな。およそ40分かかって、ガンジス川(以下、ガンガー)にほど近い「ゴドウリヤー」の交差点に着き、タクシーを降りる。ううう、ものすごい大混雑で身動きがとれない。大量の人間とクルマと牛とリクシャーと犬とバイクとヤギが、けたたましい騒音や鳴き声を上げながら、それぞれテンでバラバラにうごめいている。しかも雨。バラナシって、こんなにむちゃくちゃだったっけ。 今夜の宿には昼間に一度電話を入れていて、念のため空室を訊くと「おー、空き部屋ならメニメニルームOKよ」と言っていた。宿に向かって歩き出すと、さっそく客引きが群がってくる。「もう宿は予約してるから、キミら要らんよ」と追っ払う。しかしその中のひとりがしつこく食い下がってきて宿の名前を聞くので答えると「おー、キミはラッキーガイだ!ちょうど私はそのホテルの人間なんだ。さぁ私がキミをホテルまで連れて行こう、私についてきなさい!」と高らかに宣言して歩き出す。なぁにがラッキーガイや。どうせ手数料目当てのフリーの客引きだろう。「自分で行けるし、別にいいよ」と言うが、「いやいや、道も暗いしわかりにくいぞ。私を信じてついて来い!なんせ私はそのホテルの人間なんだから!」などとしつこい。違う場所に連れて行かれるわけじゃないし、まぁいいか、とついて行く。 確かに、バラナシの路地は細くて暗く、目指す宿の場所は相当わかりにくい。もうすっかり日が暮れてしまって周囲がほとんど見えないのと、入り組んだ細い路地を何度も何度もクネクネ曲がるので、これはやはり一人で辿り着くのはかなり難しいなぁと思った矢先、本日最大の危機が訪れる。 暗くてまったく地面が見えない路地の途中で何かを踏んづけ、思いっ切り滑った。「しまったぁ!」。牛の糞のかたまりの中に、モロに足を突っ込んでしまったのだ。バラナシの路地というのは至る所に牛が入り込んでいて、狭い道幅いっぱいに立ったり座ったりしている。牛がいると、当然牛の糞も落ちている。牛の糞というのは、犬のフンのような可愛らしいものではなくて、中型のバケツ一杯分をたっぷり山盛りぶちまけたぐらいの量である。少し薄明かりのある通りに出たところで見てみると、サンダルの左足前半分が牛の糞まみれで、ワタシの生足の指先にまで牛糞がネットリ絡みつき、極めて悲惨な状態になっている。臭いもヒドいし、こりゃ最悪である。トホホホ。 牛の糞が詰まってすっかり重くなった左足を引き摺りながらさらに歩き、やっとのことで宿に到着。念のためマスターに「この男、おたくの従業員って言ってるけどホント?」と訊くと、マスターは「こんなやつ知らん」と。やっぱりな。そして案の定、客引きとマスターとで大モメになる。「彼は電話してきた予約客なんだからマージンなんか払わん」「しかし、ここまで連れてきたのは自分だ」と言って、延々と口論を始める。あのさぁ、どっちでもいいけど一刻も早くこの足洗いたいんだけどワシ・・・。 ようやく部屋に入るとすぐさまシャワールームに駆け込み、それから一時間近くかけて、涙をこらえながら徹底的に靴と足を洗う。本来なら、今夜はガートで行なわれる「プージャ(礼拝)」に参加して、それを厄年のお祓いイベントにしようと勝手に決めていたのだが、すっかりそれどころではなくなってしまい、牛の糞を洗い終わった頃には、プージャも終わってしまっていた。 まぁ人生そんなもんだよなと溜息をつきつつ、腹も減ったので屋上のレストランに上がってみると、おぉーこの眺めはすごいぞ。灯りの少ないバラナシの夜景ではあるが、この屋上レストランからガンガーを望む眺望は絶景である。ともかく今日一日の移動の疲れを労い「ベリーベリーコールドビア!」を頼んで、一気に飲み干す。あー今日もビールがうまいぜ。マサラエッグカレーの晩飯も、スパイスが効いてて美味い。すっかり気を取り直し、一息ついて冷静に周囲を見回すと、屋上レストランには二組の若いカップルがグループになっている他、放浪ひとり旅系の若者が数名。そこにホテルのマスターや若いインド人数人が一緒になって、いつしかハッピーアワーに突入していた。ワタシも誘われるまま彼等の輪に入り、たわいもない話で盛り上がる。ガンガーを渡ってくる夜風が妙に心地よく、ピースフルな空気の中でバラナシの夜は更けていく。<続> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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