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ソクラテスの妻用事

ソクラテスの妻用事

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2021年10月03日
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カテゴリ:ブログ冒険小説

パダウの呪い

光あるうちに光の中を歩め(トルストイ)

 

                                        (1)

 

北海道もようやく新型コロナ緊急事態宣言が解除された10月初旬のこの日、平日だったが堰を切ったようにアウトドア派たちは、各キャンプ場へと繰り出した。その中、70歳を過ぎた北小路平和(きたこうじひらかず)はひとり、札幌市清田区の自宅マンションを夕方5時過ぎに出て、裏洞爺湖畔にある温泉が併設されている民営オートキャンプ場に行った。いつものソロキャンプである。彼は「ジジソロキャンプ」と自身のブログで称しているが。

キャンプ場に着いたのは予約通りではあったが、すっかり帳が降りた7時を過ぎていた。

この時期、10月上旬ともなると、夜間の気温は初冬の4℃だった。とはいえ、広いキャンプ場には焚き火、ランタンの灯りとともに大小のテントが、赤・青・黄色のカラフルな光を暗夜に放っていた。ちなみにこのキャンプ場からは洞爺湖は見えない。湖畔沿いに林があり、湖水に浮かぶこんもりとした中島が前方の洞爺湖温泉街を遮っているからだ。しかも朝から曇天である。暗夜だ。

北小路は受付を終え、指定のテント設置場所へ車を向けた。隣のテントと30mほど離れ、北小路は素早くテントの設置を急いだ。そうはいっても歳のせいか、息が上がり呼吸も荒かった。いつもの彼らしい苦役である。

30分程でワンポールテントを張り、焚き火台、折りたたみ椅子を並べた。食料、ランプ類などを入れ、テーブルを兼ねたワークボックスを椅子の横に置くと、腰をどっと下ろしタバコのケント・ニコチン1mmgを燻らせた。吐く息と煙が混じり真上に立ち昇っていく。風が無いのは助かる、と北小路は呟いた。

 紅蓮の炎に化した焚き火が勢いをフェイドアウトすると、ケトルを焚き火上の金網に載せる。ほどなくケトルが蒸気音を鳴らすと、先ずは珈琲を淹れる。マグカップを天に掲げ一礼し、濃く苦い珈琲を啜る。この一連の動作は、北小路の儀式でもあった。大自然の聖なるものへの畏敬と感謝を込めて。そして祈る。無事、何事も無く今回のキャンプが終えるように、と。だがその時、キャンプ場横の林からキャーンと鹿の甲高い鳴声が響いた。北小路の心に、ぐさっと突き刺さった。彼の脳裏が、何かの警戒音として捉えたからである。何事も無ければよいが……

 






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最終更新日  2021年10月03日 14時46分17秒
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