人生日録・死 昭和 3.6.1 あ
モーターボートに乗った一行、もし之が覆(くつが)えればいかに、皆と一緒なればいつ死ぬるも憾(うら)みなしという。人間は死にさえが友を求める。ことほど左様に孤独を忌(い)むのだろうか。死に直面したる時、死後を思う心は千々に砕ける。そこには妻の顔、子の顔、そして父母兄妹の顔、そしてその顔を掴んで生きたいと悶え苦しむ。それは皆、ある意味に於ける自己擁護だ。「裏を見せ表を見せて散る紅葉」良寛のような純真は望めなくとも、一個自己の表裏明暗あるがままに見せぬいて装わず、偽らず臨終したいと願う。