3311577 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
June 24, 2021
XML
カテゴリ:音楽
イタリアのテノール、ヴィットーリオ・グリゴーロのリサイタルに行ってきました。
 イタリアのテノールの中では、いまフランチェスコ・メーリと並んで最も活躍している歌手でしょう。実力派のメーリ、スター性のグリゴーロ、という感じでしょうか(あ、グリゴーロに実力がないと言っているわけではありません。舞台での華、という意味です)

 グリゴーロはしばしば、パヴァロッティに例えられるようです。幼い頃からパヴァロッティが憧れで、子供の頃「トスカ」で共演し、指導を受けたこともあるという。
 確かに、「スター性」のあるイタリア人テノール、という点では共通します。とはいえ、個性は全然違う。それは「時代」のせいもあります。パヴァロッティの魅力はなんと言っても「声」。太陽のような声、人を幸せにする声。恰幅の良さも、おおらかさの象徴のようで、だから棒立ちで歌っていても全然構わない、むしろパヴァロッティらしい。
 一方グリゴーロは徹底して「演じ」ます。スタイルもいいし(テノールには珍しい長身)、動きも敏捷、身体的能力が高い。そして客席を巻き込む。客席の反応を絶えず意識し、盛り立て、客席と一体化する。サービス精神のかたまりです。ポップスも歌っていた経験のせいもあると感じました。あのパフォーマンスは、クラシックのものではないなあと。

 今回の来日前に、オンラインで記者会見があり、いくつか質問させてもらったのですが、以前、サントリーホールでのリサイタルの時に、1曲1曲「演じて」歌っていて、それがすごく印象的だったので、そのようなことを質問したら、「リサイタルにパフォーマンスを持ち込んだのは自分が最初だと思う」というようなことを言っていました。グリゴーロ劇場。自分も十二分すぎるくらい意識して、武器にし、個性にしている。そこはパヴァロッティとは全然違います。そしてそれは、演じる時代でもある今のオペラ界の反映だとも思います。

 今回のグリゴーロ劇場はまた特別でした。何しろパンデミック以来、初めて有観客の舞台に立ったというのですから。
 とにかく舞台に立つのが嬉しい。歌えるのが嬉しい。お客さんが目の前にいるのが嬉しい。ジェスチャーにも歌にも、客席とのコミュニケーションにも、その喜びが全開でした。私のお隣にいたマダム二人組、「かわいい!」を連発、コンサート中で50回は言っていたかも。

 プログラムはオペラアリア一色。前半はイタリア、後半はフランスものが中心でした。ベルカント(「愛の妙薬」)に始まり、ヴェルディ、そしてプッチーニ。「ボエーム」の「冷たい手よ」では、譜めくりの女性の手にそっと触れ、「リゴレット」の「女心の歌」では、陽気で快活で憎めない公爵を、開放的な演技で演出する。「トロヴァトーレ」の「見よ、恐ろしい炎」では、歌い掛ける素振りを繰り返したり。「ロミオとジュリエット」の「太陽よ、昇れ」では、P席をバルコニーに見立てて走り寄る。「ホフマン物語」の「クラインザックの歌」では、酔っ払いの詩人になりきってフラつく。惹きつけます。

 声はリリカルで伸びやか、柔軟性もあり、甘さも備えた、魅力的なテノールらしい声。技術的にも安定感があるのは、ドニゼッティのようなベルカントもかなり歌い込んできたこともあるのかもしれません。
 けれど、個人的に彼のレパートリーで魅力を感じるのはフランスものです。イタリアものなら、正直、メーリもいるし、他にもテノールはいる、といえば、います。けれど、グリゴーロのフランスものの繊細な表情、甘く滴るような表現、豊かな弱音、柔らかな語感はとてもいい。ラテン系の明るい響きも、もちろんプラスに働きます(カウフマンの暗目の響きとは違う。良し悪しではなく個性ですが、フランスものはいろんな歌手が歌うから、ラテン系とゲルマン系では雰囲気が違いますよね)。これはパヴァロッティとは全然違う個性です。以前、METでダムラウと共演した「マノン」は素晴らしかったし、やはりダムラウと共演した「ロミオとジュリエット」はライブビューイングで見ましたが、最高でした。恋するロミオになりきって、舞台を走り回っていた。
 フランスものが得意な理由について、「子供の頃、フランス人が通う学校に通っていた」ことが良かった、と記者会見で言っていて、そうだったのだ、と思いました。あの言葉の美しさは、一朝一夕にできるものではないでしょうから。
 で、今回も、「マノン」の「夢の歌」が、個人的には絶品だったのでした。

 プログラムの終演は9時過ぎ。さあこれから第三部(アンコール)が始まるかと思ったら、本人から、お礼の言葉と一緒に、「9時で終わらなければならないから」とお詫びの言葉が。わあ、残念と思ったら「でも1曲だけ」とのことで、「カルメン」のアリアか、ナポリ民謡か、客席の意見を聞いてどちらかを歌うと。「カルメン」はロールデビューを控えて練習していたというので、そちらに拍手し、それは切ない「花の歌」を聴くことができました。これで終わりだ、と思い込み、色々立て込んで気が急いていたので帰ってしまいましたが、なんとさらに「椿姫」の「乾杯の歌」を歌ったという。残念無念!グリゴーロの「椿姫」は、2009年に彼を初めてオランジュ音楽祭で聴いた時の演目で、その甘くスマートな声に感動した、初聴きの役だったのです。さすが、グリゴーロ劇場。

 グリゴーロ劇場、まだしばらく日本で続きます。大阪、福岡、東京。最終日は7月3日。
 グリゴーロ チケット情報





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  June 24, 2021 10:40:55 AM


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

プロフィール

CasaHIRO

CasaHIRO

フリーページ

コメント新着

バックナンバー

April , 2024

© Rakuten Group, Inc.