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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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September 7, 2021
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カテゴリ:音楽
この日曜日、演出家の古川寛泰さんが主催する「オペラ・ノヴェッラ」の公演「椿姫」に伺いました。
 これが、とても充実した、中身のある公演で、感服しています。色々な意味で、意義のある公演でした。

 まずこの「椿姫」の公演が、「座間市市制50周年」記念事業に一環として行われており、主催が「座間市スポーツ・文化財団」だというのが一つの発見でした。「オペラ・ノヴェッラ」の主催者である古川さんも座間の住民であり、つまりこの団体は、かなり座間市の「市民オペラ」に近い、と言えるような気がします。合唱団「ハーモニーホール座間 オペラ合唱ワークショップ」も、公募の合唱団でしょう。かなり市民参加型。日本の場合、イタリアやドイツのように地方に「劇場」があるわけではないのですが、一方でそのような役割を市民オペラが果たしていたりする(例えば藤沢)。結構、そんな形に近い。
 何より、公演の内容がよかったことは、座間市の目のつけどころ?の勝利でしょう。
 
 まず貴重だったのは、クリティカルエディションによる「ノーカット版」の上演だったこと。
 これ、なかなかないことなんです。ですから、普段使われる慣習版では聞こえてこない音がたくさん聞こえてきてワクワクするのはとても楽しい経験でした。第三幕の二重唱もちょっと長かったし。得した気分なんですね。そのことも、プログラムに書いていただいたらよかったのですが。
 
 演奏も演出も、もちろんクオリティの高いものでした。
 主役の歌手の方々はオーディションで選ばれたようですが、まず主役の田中絵里加さん。2011年からイタリア在住とのことで、お名前も知らなかったのですが、非常にレベルの高い歌唱力。クリスタルでリリカルな音色、澄んだ響き、中音域から高音までむらのない発声、安定した技術。イタリア語もとても綺麗で、とにかく「歌える」方でした。もう少し表現力が出てくると、観客を「打ちのめす」レベルにまで行けるのでは。技術と歌唱力だけで言えば、例えば新国立劇場でこの役を歌っている外国人歌手にも劣らないと思います。そのような意味では、田中さんの「歌唱力」を示せた第一幕が一番よかったかもしれません。
 男性陣も、アルフレードに宮里直樹さん、ジェルモンに今井俊輔さんと、第一線で活躍中の歌い盛りばかりの豪華版。お2人はついこの間も二期会「ファルスタッフ」で好演したばかり。宮里さんは持ち前の美声だけでも魅力なのですが、声をコントロールする力がついてきて、演技力が充実してきた感があります。第二幕第2場の大詰めの迫力は感動ものでした。
 今井さんは、3人の中では一番、声を的確に飛ばせる力がある歌い手。ここ、というところで客席にうまく飛ばせる。もちろん、元々の声量と深い美声があってのことですが。演技もスタイリッシュで、加えて幅があります。ジェルモンの心境の変化が刻一刻と伝わる演技でした。
 というわけで、主役3人が揃って立派で(有名カンパニーでもなかなかない)、脇役にも例えばグランヴィルで最近赤丸急上昇のバス、加藤宏隆さんがいたりと、贅沢な布陣。合唱も過不足なく、加えて瀬山智博さんの指揮も雄弁で、間のとり方もうまいし、デュナーミクも丁寧。何より人物の心に沿った音楽になっていたのです。
 
 古川さんの演出も、シンプルすぎずゴタゴタしすぎず、ドレープ(第一幕)やデスク(第二幕第一場)やベッド(第三幕)といった大道具小道具をうまく組み合わせて雰囲気を出し、歌手にもきちんと演技をさせて、こちらも満足のゆく出来栄えでした。照明も大変効果的に使われていました。
 いや本当に、国内でこれだけ満足度の高い「椿姫」には、そうそう出会えるものではありません。
 数年前の三河市民オペラ「トロヴァトーレ」に続いて、「市民オペラ」(的な存在)の力を、思い知らされた公演でした。

 プログラムにヴェルディ研究者の小畑恒夫先生のエッセイがあり、「椿姫」は社会批判でも恋愛劇でもない、最後にヴィオレッタが自分は神に迎えられるのかと苦悩して祈る「宗教劇」だと書かれていたのにはなるほど、目から鱗でした。





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最終更新日  September 8, 2021 02:44:09 PM


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