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加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

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December 8, 2021
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カテゴリ:音楽
新国立劇場「蝶々夫人」。栗山民也演出の8回目の上演。ロールデビューの中村恵理さんが評判になっています。新国の主催公演でロールデビューなんて、さすが世界の中村ですね。新国の研修所出身というのも大きいですね。

 ひたむきな蝶々さん。正直、リリカルで繊細な中村さんの声にはぎりぎりの役。技術的なレベルがとても高いので、最初から最後まで実に見事に!歌い切っていらっしゃいますが、「中村恵理の声だ!」と感じるまでには行かない。そこが、「声的にはぎりぎり」と思う所以です。これが例えばスザンナだったら違うだろうな、と思うわけです。
 ただ中村さんの素晴らしいところは、さまざまな面でそれを補っているところ(クレバーな方ですね)。演技であったり、所作であったり(着物の首筋から見える表情まで神経が行き届いている)。何より、中村さんの役柄への情熱、ひたむきさがありありと感じられる。それが、蝶々さんという役柄のひたむきさと重なり、感動を生み出している、と個人的には感じました。
 ピンカートン村上公太さん、スズキ但馬由香さんは尻上がりに良くなった感じです。
 個人的な歌手陣のベストは、ゴロー役糸賀修平さん。リリカルでキャラクターのある声、よく通るし、演劇的だし、すごく印象的で、耳に残った声でした。糸賀さんの声をもっと聴きたかった。シャープレスに外国人歌手がキャスティングされていましたが、うーん、日本人歌手でも良かったのではないでしょうか。
 下野竜也さんの指揮は見通しがよく分かり易い。甘々プッチーニを期待される方にはちょっと物足りないかもしれないけれど、個人的には(ベタベタが苦手なこともあり)聴きやすいです。

 プログラムが極めて充実。新国の「蝶々夫人」プログラムの中でも最高レベル。小畑恒夫先生の作品解説、プッチーニがワグネリアンであること、いかにワーグナーの手法を自分なりに消化したかがよくわかって実に勉強になりました。彼がワグネリアンだということは触れられることが少ないと思うのですが、「蝶々夫人」や「トスカ」の解説に「ライトモティフ」は必須ですよ。それらを「モザイクのように処理している」という小畑先生のご指摘は頷かされました。小畑先生のエッセイ「蝶々夫人に取り入れられた日本の旋律」でも同じような指摘が興味深い。
 オペラの台本に関する興味深い著書「オペラは脚本から」を出された辻昌宏さんは、題材が「蝶々夫人」に決まるまでの紆余曲折を。話題の「マリー・アントワネット」をはじめいろんな題材を探っているのですね。
 そして長崎の「出島」の研究などをなさっているという赤瀬浩さんの「長崎のマッチングシステム」についてのエッセイもとても面白かった。出島の時代から、長崎には駐留オランダ人と「現地妻」の風習があった。あのシーボルトも現地妻を迎え、子供まで儲けている。シーボルト帰国後に彼女は別の男性と再婚。だから蝶々さんの時代も、長崎ではそういうことはごく一般的。それはそうですね。
 実際に長崎の現地妻体験を小説にした、ロティの「お菊さん」についても詳しく紹介されていました。そして「蝶々さん」は実在しない人物、ということも。
  そう、蝶々さんは、プッチーニの空想の世界の、理想の女性なんだと思います。おっかない奥さんや、「コリンナ」とかいう愛人に騒がれて頭を抱えていた彼の逃避先が、夢の国日本の理想の女性。だからあそこまで丁寧に心理を書いたんじゃないかなあ。
 あと、「蝶々さん」が原作群と違うのは、とてもイタリア的、宗教的ということですね。ヒロインが改宗してしまうというのは原作群にはありませんし、それが元で親戚と絶縁なんてのももちろんありません。その点もとても、日本的というよりイタリア的だと思います。 
宣伝で恐縮ですが、「蝶々夫人」ができるまでのいわゆるジャポニスムとの関係については、拙著でつらつら書きましたので、ご一読いただけると嬉しいです。重要な原作群の一つである「お菊さん」についても。これ、主人公はピンカートン並みに共感できないですが、日本の描写はところどころとても腑に落ちます。朝方に聞こえてくる日本の「音」の描写なんて、まさに「蝶々夫人」の夜明けの音楽にインスピレーションを与えていると思う。

オペラで楽しむヨーロッパ史





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最終更新日  December 8, 2021 09:23:36 AM


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