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カテゴリ:茶木の音楽紀行
その日の授業が終わり、クワストフと僕は彼のアウディーに乗り込んでアウトバーン
をケルンへと向かった。 道中彼は陽気にいろいろ話し掛けて来て、僕が理解していないのを見るとゼスチャー を交えてすべて諦めず説明してくれた。 彼はとても細やかな思いやりを持ってこちらが分かりやすいようにとてもうまく説明 してくれたので幾つかの単語を覚える事が出来た。 その時彼は今日の授業の事について話していて、「いつもならそれさえも分からない 所だ」僕も言いたい事を数少ないボキャブラリーとジェスチャーで必死に伝えようと して、彼も根気強くそれを汲み取ろうとしてくれた。 アウトバーンを下りてケルンに着くと「腹が減ったからハンバーガーを食べて行こう ぜ」と言って彼は腹が減った!というジェスチャーをした。 我々は歌劇場の向かいにあるマクドナルドに入ってハンバーガーを食べた。 味も店内の感じも店員のユニホームも日本とまったく同じでとてもほっとした気持ち になれたが、ただ店員の女性はにこりともしなかった。 僕たちは学生チケットを買いホールに入ったが、クワストフが係員のおばさんと顔見 知りなようで、ど真ん中の空いているとても良い席をこっそり教えてもらいゆったり とそこに座った。 「ケルンの伝統的なすてきなホールは戦争で完全にやられて、戦後このつまらないホ ールが建った」と彼は説明してくれた。 確かに殺風景ななんの装飾もないホールだった。 その日の曲目は偶然にもシューベルトの「美しい水車屋の娘」で、[プレガルデイエ ン]はまるでドイツのビールを喉越しで味わっているような爽快で抒情的なテノール を聴かせてくれた。 帰りの車の中で彼は「高い音が良くない」とか「喉が硬い」などと批判していたが、 「でも僕は幸せだった」と言うと、「そうか!」と嬉しそうに微笑んで僕の膝を揺す った。 彼は僕のアパートまで送ってくれ、「それじゃまた明日!」と言って別れた。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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