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カテゴリ:演劇、観劇
こまつ座第八十一回公演。
時は昭和21年。場所は、内幸町の日本放送協会。昔はこの日比谷にありました。 元花形アナウンサーの川北京子(浅野ゆう子)の提案で始めたラジオの‘尋ね人’番組。アナウンサーが読むその原稿を作る部屋が舞台です。 正面には左右に郵便の入れられた棚が置かれています。右側が読まれた手紙がきちんと入っている棚。左側がひもで束ねられ、まだ手をつけていない郵便物の束が収められています。 さて、この‘尋ね人’の番組は、戦争の混乱で生き別れた家族や知り合いを探すのに、日本国民がラジオにかじりついて耳を澄ませて聴いていたのだと言います。 ある日、放送を監督する主任にフランク馬場(佐々木蔵之介)が新任で、そして人目を盗んで一人の青年(川平慈英)が「探して欲しい」と、この部屋にやってきました。 青年に尋ねても、いっこうに本人の詳細がわかりません。どうやら戦地で記憶を失ってしまったようです。 そこで京子たちは新しいコーナーを‘尋ね人’に作りました。 「私はだれでしょう」 当時はそういう人が多かったという、悲しい事実もあるそうです。 自分探し=家族を見つけること。 そう簡単にはいきませんが、川平のフットワークの軽さを持ち味にした人物設定に、私たちはいつも励まされていたような気がします。 挫けずに、常に前を見つめるその根性。 考えてみれば、彼には失うものは何も無かったのです。 戦後、そうやってゼロから出発した人、それを応援する人、今を生きていることに喜びを見出した人々がたくさんいたことでしょう。 その陰にある家族や家を失った人々の想いも、この作品は忘れていません。 作者も然ることながら、演出の栗山民也が、戦争によって様々な状況に置かれた登場人物一人一人を丁寧に描いています。 敗戦後、日本放送協会(NHK)はGHQの監督下にありました。 「探して欲しい」の声は、広島から、そして長崎からも届きます。しかしそれはこの頃‘ラジオコード’にかかる禁句でした。 ※書き忘れていました。左側の棚の手をつけられていない郵便物は、広島や長崎からのものだったのです。 聴衆の声を聞き届けようと、京子とフランクのその結果がわかっていながらとった行動に、胸が痛みます。 ぎりぎりまで練られた作品のようです。 この空間と登場人物をフルに活用した内容には‘さすが’の一言です。 作・井上ひさし、演出・栗山民也、音楽・宇野誠一郎、美術・石井強司、照明・服部基、衣裳・前田文子 (紀伊国屋サザンシアターにて) ※写真は公演中ロビーで販売されている「the座」。 プログラムのようなものですが、キャストの紹介、作品の時代背景から関連する事柄まで情報満載で読み応えがあります。(¥980) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.02.10 22:23:37
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