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《櫻井ジャーナル》

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2021.02.16
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 バラク・オバマ政権はNATO軍、あるいはアメリカ主導軍をシリアへ侵攻させる口実として「化学兵器話」を使い始める。2012年8月、オバマ大統領は生物化学兵器の使用がシリアへの直接的な軍事介入の「レッド・ライン」だと宣言、同年12月には国務長官だったヒラリー・クリントンがシリアのバシャール・アル・アサド大統領は化学兵器を使う可能性があると語っている。

 そして2013年1月29日付けのデイリー・メール紙には、オバマ政権がシリアで化学兵器を使ってその責任をアサド政権に押しつける作戦をオバマ大統領が許可したという記述がイギリスの軍事関連企業ブリタム防衛の社内電子メールの中に書かれているとする記事が載った。(同紙のサイトからこの記事はすぐに削除された)

 その後、シリア政府軍が化学兵器を使ったとする話を西側の政府や有力メディアは何度か主張してきたが、いずれも嘘が明らかにされている。それでもアメリカ政府は同じシナリオを繰り返し、有力メディアはそれを垂れ流している。

 そうした化学兵器話の発信源のひとつがSCD(シリア市民防衛/通称白いヘルメット)。2013年3月にジェームズ・ル・ムズリエなる人物がトルコで創設した。設立資金の30万ドルはイギリス、アメリカ、そして日本から得たという。その後、西側のNGOやカタールを経由してアメリカ政府とイギリス政府から資金を受け取ったとされている。

 ル・ムズリエはイギリス軍の元軍人で、2000年に退役、その後オリーブ・グループという傭兵組織の特別プロジェクトの幹部になった。この組織は後にアカデミ(ブラックウォーターとして創設、Xeに改名、現在に至る)に吸収されている。

 2008年に彼はオリーブ・グループを離れてグッド・ハーバー・コンサルティングへ入り、アブダビを拠点として活動し始めるのだが、この段階でもイギリス軍の情報機関と緊密な関係を維持している。

 SCDはアル・カイダ系武装集団の医療部隊として活動してきたが、公開された映像から、そのメンバーは医療行為の訓練を受けていないと指摘する人もいる。

 また、SCDのメンバーがアル・カイダ系武装集団と重複していることを示す動画や写真の存在、アル・カイダ系武装集団が撤退した後の建造物でSCDと隣り合わせで活動していたことを示す証拠などがバネッサ・ビーリーやエバ・バートレットらによって確認されている。

 こうした実態をアメリカ政府も知っているようだ。​SCDのシリアにおける責任者ラエド・サレーをFBIは「テロリスト」だと認識、彼はアメリカへの入国を拒否されている​。

 オバマ大統領は2015年に戦争態勢に入る。政府を好戦的な布陣に作り替えたのだ。2月に国防長官がチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ交代、9月には統合参謀本部議長がマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代している。

 ヘーゲルは戦争に慎重だったが、カーターは2006年にハーバード大学で朝鮮空爆を主張した人物。シリアからバシャール・アル・アサド大統領を排除しようとしていたバラク・オバマ大統領とは違い、サラフィ主義者やムスリム同胞団を危険だと考えていたデンプシーはシリア政府と情報を交換していたと言われている。

 統合参謀本部議長が交代になった直後の9月30日にロシアはシリア政府の要請で軍事介入、ダーイッシュなど武装勢力の支配地域は急速に縮小していく。アメリカ主導軍と違い、ロシア軍は本当にダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力を攻撃したのだ。アメリカの軍や情報機関はダーイッシュなどの主要メンバーを救出、クルドを新たな手先にした。必然的にSCDの出番も減る。そして2019年11月11日、SCDを創設したジェームズ・ル・ムズリエがトルコで死亡した。

 そのSCDがバイデン政権になってから活動を再開させたという情報がある。​ロシア国防省はSCDがシリアのイドリブで新たな挑発工作を目論んでいると警告​した。ハイアット・ターリル・アル・シャムの活動と関係がありようだ。

 軍事的に優位だったにもかかわらず、シリア政府軍が化学兵器を使ったとする話がSCDなどから流されていた2013年8月、ダマスカスの近くのゴータで爆発があった。

 攻撃の直後にロシアのビタリー・チュルキン国連大使は反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射されてゴータに着弾したと国連で説明、その際に関連する文書や衛星写真が示されたと伝えられている。

 その後、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュや国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授を含むジャーナリストや学者によって化学兵器話は否定された。

 それでもオバマ政権は直接的な軍事侵略を実行しようとしていた可能性が高い。西側の有力メディアは9月の初めに攻撃が始まると推測していたが、実際、2013年9月3日に地中海の中央から東へ向かって2発のミサイルが発射された。

 この発射はロシアの早期警戒システムがすぐに探知、公表されるが、ミサイルはいずれも途中で海へ落下してしまう。イスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射実験だと発表しているが、この説明には疑問がある。事前に周辺国(少なくともロシア)へ通告せずに発射実験をするとは考えにくいからだ。何らかの手段、例えばジャミングでミサイルのGPSが狂って落下したと推測する人もいる。

 この当時、アメリカ軍はシリアの近くにある基地にB52爆撃機の2航空団を配備したほか、5隻の駆逐艦、1隻の揚陸艦、そして紅海にいる空母ニミッツと3隻の軍艦などを地中海に配備した。これに対抗してロシア政府は「空母キラー」と呼ばれている巡洋艦のモスクワを中心にしてフリゲート艦2隻、電子情報収集艦、揚陸艦5隻、コルベット艦2隻がシリアを守る形で配置されたとされている。

 その翌年にダーイッシュが出現、その残虐性が宣伝された。その残虐な武装集団と戦うという名目でNATO軍、あるいはアメリカ主導軍が軍事侵攻、シリア政府を潰すというシナリオだったのだろう。

 アメリカでオバマ政権の副大統領が大統領に就任、オバマ政権と同じことをする可能性がある。それに対する準備をシリア政府だけでなく、イランもロシアも始めている。(了)






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最終更新日  2021.02.16 12:00:08



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