「だって、アンドレス様の叔父上様のトゥパク・アマル様は、叔父様よりも、もっとお強いではありませぬか。」
アンドレスは、アンヘリーナに改めて視線を向けた。
「トゥパク・アマル様をご存知なのですか?」
「叔父様からお話を聞かせてもらっただけですけれど。」
「なんと聞いている?」
アンドレスはやや身を乗り出すように、うつむきがちな少女の顔を覗き込んだ。
「トゥパク・アマル様は、はじめて叔父様に会われた時、斧で果し合いをして、叔父様を負かしてしまったそうですわ。」
「トゥパク・アマル様が、アパサ殿を?!」
初耳だった。
トゥパク・アマルから、アパサの元で修行してくるようにとは言い渡されていたものの、詳しい経過は全く聞かされていなかったのだ。
思いに耽ったような目をしているアンドレスに、アンヘリーナは静かに礼をして「お食事をお持ちしますわ。」と言うと、淑やかな物腰で部屋を出ていった。
アンドレスは蝋燭の影が揺れる天井を見つめた。
トゥパク・アマル様は、あのアパサ殿に勝った…――。
アンドレスの胸が熱くなった。
彼の脳裏に、トゥパク・アマルの姿が甦る。
最後に会った時、トゥパク・アマルはアンドレスをまっすぐに見つめて言った。
『アパサ殿は、私が見込んだ、なかなかの優れた武将だ。
そなたは、いずれ我々の反乱軍を率いる将となる運命にある者。
その身に、そして、その心に、武人として相応しい技量をしかと身につけてくるのだよ。』
(トゥパク・アマル様…!)
アンドレスの天井を見つめる眼差しが鋭くなる。
その瞳には、再び強い光が甦りつつあった。