|
カテゴリ:第4話 皇帝光臨
コイユールは自分の不吉な想念を振り払うように、思い切り頭を振って、それから、きっ、とした目でその不気味な空を見返した。 そして、再び瞳を閉じ、頭の中からその嫌らしい血のイメージを押し出すように、光のイメージを脳裏に描いていく。 それから、インカ軍が布陣を敷いているこの一帯の地域を心に思い描き、それに向かっていつものように太陽と月のシンボルをイメージで描き、秘伝のマントラを3回唱える。 すると、イメージの中で、光が全軍を包んでいく様子が感じられる。
さらに、彼女は閉じた瞼の中に、全軍の指揮者、トゥパク・アマルをイメージする。 そして、彼に向けて集中的に光を送る。 トゥパク・アマルにしてみれば、義勇兵の天幕の片隅で、そのようなことをしている者がいるなど知る由もないだろう。 しかし、コイユールはトゥパク・アマルに光を送ることで、それは、すなわち特殊な波長で相手にアクセスすることであり、従って、逆にトゥパク・アマルの様子を逆輸入的な情報として感じ取ることができた。 それは、もちろん、直感的なイメージのレベルのものなのだが、その感触が時によって、あたたかかったり、冷たかったり、柔らかかったり、硬かったり、そんなふうに彼女のイメージの中に届けられてくるのである。 そして、今、彼から送られてくるイメージは、コイユールが想像していた通り、決して明るい感覚のものではなかった。 むしろ、冷たく、硬い感触が伝わってくる。 表面には決して出さぬトゥパク・アマルの不穏な心境が、読み取れるように思われた。
いっそう深くまで読み取っていく。 すると、その暗いイメージのさらに奥深くで、それとは全く逆のイメージが…――眩(まばゆ)い強烈な光の塊が激しく燃え上がり、煌々と輝き渡るさまが、彼女の脳裏に電流のごとくに流れ込む。 それはイメージの中でさえ直視できぬほどの眩しさで、思わず、閉じた瞼の中で目をそらした。 コイユールの鼓動が急激に速くなる。
今、その鮮烈な閃光は、その表面に覆いかぶさるがごとくになっていた、冷たく、硬いものを、まるで炎が鉄を溶かすかのように、ジワジワと消し去っていく…――!! コイユールは、ハッと目を見開いた。 高揚感が高まり、頬が高潮する。 彼女は己を落ち着かせるように、片手を速まる胸に、そして、もう片手を火照った頬に、ぐっと押し当てた。 それから、まるで赤黒い空に挑むように、再び、きっ、とその清い瞳で上空を見返した。 「トゥパク・アマル様は、やはり強いお人! 必ず、インカを守ってくださる!!」 そう天空に向かってきっぱり言うと、その言葉を自分の中にも染み込ませるように深く噛み締めた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[第4話 皇帝光臨] カテゴリの最新記事
|