その間にも、アンドレスは、開け放たれた隠し扉の中に、水桶を持って次々に走り込んでくる部下たちに、「もっと、もっと、水を!!二人に、それに、部屋全体に!一刻も早く火を消し止めねば」と、指示を飛ばしている。
それから、アンドレスは、半ば涙を滲ませた大きな瞳を揺らしながら、滔々と水の滴るトゥパク・アマルの無事な姿を、再び感動を込めて見つめた。
彼は、即座に懐剣を取り出すと、トゥパク・アマルの手首を縛っていた太縄を、掻っ切った。
「トゥパク・アマル様、もう、これで大丈夫です。
だけど、大至急、お怪我や火傷の手当てをせねばなりません」
「いや、わたしは大事ない。
案ずるな」
アンドレスと話すうちに徐々に意識が清明になってきたようで、トゥパク・アマルの表情には、次第に生気が戻りつつあった。
「それより、アンドレス、そなたたち、どうやって、この部屋の扉を開けたのだ?」
「あいつが、隠し扉を外から開けるための鍵を持っていたんです」
そう言って、アンドレスは、肩をすくめて笑顔をみせながら、執務室の中央へ目をやった。
彼の視線の先には、インカ兵たちに囲まれながら、苦虫を何十匹も噛み潰したような顔で立ち尽くしている、でっぷり体型のスペイン人将官がいた。
それは、ロレンソが投石技で捕えていた、あのサルセード大佐――この砦戦におけるアレッチェの副官、であった。
「捕虜となっていたサルセード大佐が、彼自身の命と引き換えに、この隠し扉を開けてくれた、というわけです」
「なるほど」と、トゥパク・アマルも合点がいって、太縄から解放された己の手首をさすりながら頷いた。
「では、大佐殿はわたしの命の恩人というわけだ。
彼には深く感謝せねばならぬな。
大佐殿との約束は必ず守り、彼の命は確実に保証せよ。
とはいえ、大佐殿に扉を開けるよう依頼をしたのは、ここに隠し扉があると、先にそなたたちが見抜いたからであろう?
隠し扉は、外からは扉と分からぬ構造になっていたはず。
なのに、なぜ扉の位置が分かったのだ?
いや、それより、重傷を負ったアレッチェ殿はどうなっている?!」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。
≪サルセード大佐≫(スペイン軍)
此度の沿岸部におけるインカ軍及び英国艦隊との決戦において、砦のスペイン軍を束ねている。
当地での戦いにおいて、スペイン軍総指揮官アレッチェの補佐官の任にある。
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