![186924](https://image.space.rakuten.co.jp/d/strg/ctrl/9/1d1a0fb3e4befafcd40a094b81fe5efd73063948.92.2.9.2.jpeg)
「ですが、トゥパク・アマル様、砦下のスペイン軍を率いる敵将が、まだ捕縛されておりません」
窓から吹き込む風雨に全身を弄(なぶ)られながら食い下がるように言うアンドレスに、トゥパク・アマルも、激しい雨に煙る戦場を見つめたまま、「うむ」と頷いた。
「あの砦下で、アパサ殿やビルカパサと剣を交えている敵軍は、これまでアレッチェ殿が率いてきたスペイン軍本隊を凌ぐほどに、重装備の非常に強壮な別働隊であった。
アンドレス、あの敵軍を総(す)べる敵将の正体について何か分かったか?」
「はい。
副王ハウレギの嫡男、アラゴン王子であるとの情報を得ています」
若々しい面持ちを凛々しく引き締めて答えたアンドレスの方に、トゥパク・アマルは敏捷に視線を馳せて、「副王の嫡男?なるほど、されば、あれほどの重火器を備えていることにも頷ける」と、噛み締めるように呟いた。
再び眼下の戦場に目をやったトゥパク・アマルの鋭利な横顔を、耳を劈(つんざ)く轟音と共に天駆ける稲妻が、白銀の光で皓々と照らし出す。
そのような主君に真っ直ぐ向き直り、アンドレスは、腰に佩(は)いた帯剣の柄を強く握り締め、決然と語を放った。
「陛下、そのようなアラゴンを放置すれば、今後、我が軍にとっては、アレッチェ以上に厄介な相手となりかねません!
せっかく我が軍が優勢な今こそ、手を緩めることなく、アラゴンとの決着を付けてしまうのが得策ではないでしょうか?」
しかし、トゥパク・アマルは、戦場を睨んだまま、きっぱりと首を振る。
「そなたの言いたいことは分かる、アンドレス。
だが、此度は、もう手遅れであろう」
「手遅れとは?」
「副王の嫡男ともなれば、とうに手を打っているであろう、あの者が」
そう答えて、トゥパク・アマルは、まだ燃え燻(くすぶ)る執務室内でインカ兵たちに看護されている意識不明のアレッチェへ一瞥を投げ、それから今一度、アンドレスへ、さらに戦場へと視線を戻していく。
そうしながら、トゥパク・アマルは、物思わしげに語り続ける。
「この豪雨や夜闇は、我らインカ軍にとって、重火器に頼った戦いを得意とする敵軍を封じるのには誠に好都合であった。
なれど、同時に、敵兵が身を隠して逃げ去るにも好都合なものなのだ。
ましてや副王の嫡男ほどの重要人物なれば、恐らく、アレッチェ殿が、自軍に不利な戦況を察した時、即、アラゴン王子を救出するための方策を打っているに相違あるまい。
この期に至っても、未だアラゴン王子が、囚われても、討ち取られてもいないとなれば、口惜しいことなれど、此度は取り逃がしたと思うしかあるまい」
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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。
≪アラゴン≫(スペイン軍)
スペインの植民地であるペルー副王領を統治する副王ハウレギの息子。
反乱鎮圧に手こずる軍に痺れを切らした副王により派兵されたスペイン王党軍を統率している。
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