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カテゴリ:第10話 遥かなる虹の民
![]() ────不意に、深い静けさと冷んやりとした空気に包まれる。 そこは、先ほどまでの戦闘中の雑踏と喧騒とは別世界だった。 裏扉から入ったために、扉の内側に広がる光景は聖堂の中ではなく、聖堂に続く廊下に面した裏口の玄関ホールのような場所だった。 玄関ホールと言っても、素朴で小さな教会であるために、今のように5人も人がいれば満杯になりそうな狭い空間である。 高い位置にある天窓から光が射し込んでいるが、外の明るい陽光の中にいたために、やや仄暗く感じられる。 それでも、さすがに教会の内部らしい荘厳で清浄な気配が満ちており、そこにいるだけで先ほどまでの戦闘で昂ぶっていた心身がスーッと鎮まっていくように感じられた。 「さあ、奥の部屋でロカ神父様がお待ちだ。 だけど、その前に、その被り物は取ってくれよ?」 マリオに促されて覆面を外した旅のメンバーたちは、冷んやりとした空気を肌で直に感じて、その心地よさと解放感に思わず嘆息を漏らした。 それから、4人は乱れた髪を手ぐしで慌てて整えると、廊下を進んでいくマリオの後ろ姿を急いで追っていく。 そうしながら、ちょうど傍を歩いていたヨハンの横顔に目が留まったアンドレスは、小声で話しかけた。 「ヨハン、さっきの戦闘ではインカ側について戦ってくれて、ありがとう」 対するヨハンは相変わらずのすげない態度で、不愛想に答える。 「別に、インカ側に味方しようと思ったわけじゃねえよ。 俺は、ただ、あの生臭坊主が気に入らねぇだけだ」 そんなふたりのやり取りが聞こえたのか、先頭を歩いていたマリオが、こちらを軽く振り向いた。 「それって、あのモスコーソのことか? 確かに、あいつは生臭坊主って呼ばれたって、文句は言えないよな。 おまえたちのおかげで、ロカ神父様をあいつに差し出すようなことにならなくて、本当に良かった」 そう噛み締めるように語るマリオの言葉を聞きながら、アンドレスは「ロカ」という神父の名前を心の内で反芻(はんすう)する。 (ロカ神父──初めて聞く名前だな。 そういえば、夕べ、マリオは、あのキリスト教の回状みたいな文書を誰が書いたのか察しがついてるって言ってたっけ。 ってことは、マリオも、アリスメンディ殿のことを知ってるってことなのか? だとしたら、この村のロカ神父もアリスメンディ殿と関わりのある人物って可能性が高い…) そう思い至ると、改めて気の引き締まる思いがして、アンドレスは背筋を伸ばした。 ミサに用いる道具などを置いている香部屋やちょっとした小部屋などを幾つか通り過ぎて廊下を進んでいくと、ほどなくマリオは聖堂の入り口近くの木扉の前で足を止めた。 それから、軽くノックして、中に声をかける。 「ロカ神父様、入ってもいいでしょうか?」 「マリオ、待っていたよ。 どうか中へお通ししておくれ」 扉の向こうから落ち着いた男性の声が響き、マリオが「失礼します」と、丁寧な仕草で扉を開けた。 ![]() ![]() 「読者の皆さま、いつもお読みくださいまして、どうもありがとうございます ![]() 最近、あんまり出番が回ってこない ![]() 日本はだんだん寒くなってきていると聞きます。 どうかご体調管理にお気を付けてお過ごしください。 風邪をひいたら私が薬草を煎じますので、仰ってくださいね ![]() ≪トゥパク・アマル≫(インカ軍) ≪アンドレス≫(インカ軍) ≪ジェロニモ≫(インカ軍) ≪ペドロ≫(インカ軍) ≪ヨハン≫(スペイン軍) ≪マリオ≫(インカ側) ≪アリスメンディ≫(インカ側) ≪モスコーソ司祭≫(スペイン軍)
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