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2021.10.06
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気候モデルの研究でノーベル物理学賞が出たとは驚きだ。天文、数学、地球科学、環境、進化などの分野はノーベル賞の対象にはならない(あるいは、かなり難しい?)ので、そういう分野の為に1980年にクラフォード賞がクラフォード夫妻によって設立され、クラフォード財団とスウェーデン王立科学アカデミーが共同で運営している。今回ノーベル賞を受賞した眞鍋淑郎氏も2018年にクラフォード賞を受賞している。

気候モデルについて、トロント大学のコンピューター科学教授のSteve Easterbrookのブログポストを参考にして(注1)、少し覚書を書いておこうと思う。なにしろ歳なので、どこかに書いておかないとすぐに忘れてしまう。どこに書いたのかも忘れてしまうので、楽天ブログが、今のところ、一番便利なのだ。

気候モデルの開拓者的存在はプリンストン大学高等研究所のNorman Phillipsで、彼が1955年に発表した数値モデルは、今日「General Circulation Model(GCM、大気循環モデルと日本語版Wikipediaでは訳されている)」と呼ばれるものの嚆矢である。

Phillipsのモデルは、太陽からの熱と地球の回転の影響で、地球上の272地点での気圧がどう変化するかを数値的に予測する、比較的単純なものだった。しかし、この数値モデルがきっかけとなって1960年までに、アメリカ、日本、スウェーデンで数値的気象予報の活動が始まった。日本気象庁の数値予報業務の開始は1959年とある。

一方、1950年代後半から1960年代にかけて、Phillipsのモデルに触発されて、より長期の変化を予想するための気候モデルの研究が始まった。現代のモデルにつながる先駆的な研究に3つあり(注2)、それぞれに日本人研究者が関わっている。
・ US Weather Bureau(現在のNational Weather Service、連邦気象局)のGeneral Circulation Research Laboratory(大気循環モデル研究所)のモデル(1963年頃)。所長Joseph Smagorinskyと東京大学から引き抜かれた(?)眞鍋淑郎が主役。この研究所は後にプリンストン大学に移って、Geophysical Fluid Dynamics Laboratory(GFDL、地球物理学流体力学研究所)となる。
・ UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)のモデル(1963年頃)。Yale Mintzと気象庁から引き抜かれた荒川昭夫が主役。
・ National Center for Atmospheric Research(NCAR、国立大気研究センター)のモデル(1967年頃?)。Warren Washingtonと笠原彰が主役。
・ 実は、この3つに加えて、Lawrence Radiation Laboratory(後のLawrence Livermore National Laboratory)のCecil Leithがほぼ単独で開発したモデルが1960年頃には一応完成していて、おそらくこのモデルが本格的な気候モデルの最初のものだという話もある(注3)。しかし、Leithはこの研究を熱心に発表しなかったようで、ほとんど知られていない。

これらのモデルはそれぞれに特徴がある。(専門的な詳細は理解できないが)たとえば、眞鍋らのモデルは大気圏を9層に分割してありその点では(当時としては)よりリアリスティックであるが、地表面は一様な平面として扱われている。これに対して、荒川らのモデルでは、大気圏は2層のみであるが、地表は実際の地形が取り入れられている。

今回の眞鍋の(そしてHasselmannの)受賞は、通常の理論モデルだけでは容易に予想できない気候変動の理解に向けて、数値的シミュレーションによる方法で起動力を与えた、ということに対する評価であるとともに、気候変動への警鐘を激しく鳴らすことが目的だったのだろう。(まだ受賞理由を読んでいないので僕の勝手な推測である。)

上に述べた初期の研究で功績のあった他の研究者たちの多くはすでに亡くなっている。Norman Phillips(2019年)、Joseph Smagorinsky(2005年)、荒川昭夫(2021年3月)、Cecil Leith(2016年)。

なお、眞鍋が2001年に日本を去った理由を日本語版Wikipediaは次に様に書いている。「当時のマスメディア報道によれば、地球シミュレータを利用しての他研究機関との共同研究が、所管元である科学技術庁の官僚から難色を示されたことが辞任のきっかけとされ、日本の縦割り行政が学術研究を阻害していることへの不満による「頭脳流出」であると報じられた。」

注1 "Nobel Prize for Climate Modeling"、http://www.easterbrook.ca/steve/2021/10/nobel-prize-for-climate-modeling/

注2  "The evolution of complexity in general circulation models" by David Randall.

注3 " At the dawn of global climate modeling: the strange case of the Leith atmosphere model" by Kevin Hamilton in Hist. Geo Space Sci., 11, 93–103, 2020.





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最終更新日  2021.10.06 17:23:11
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