76 またいつかどこかで
横浜大桟橋埠頭にて船を見上げている裕子。小走りで近付いてくる聡。息を切らして「今日は裕子さんの方が早い」「今日だけ」 すっかり最初に戻っているような裕子。「ちゃんとパパ忘れてない?」 笑って「バッグに入れてきた。でもさーもうお別れね」 聡美も船を見上げて「たった 三ヶ月なのにね」「ずっと前から知っているみたい 船も聡美さんも」「私もそうよ」「ねぇ あそこのホテルに姉と娘が来てるみたい うちの聡美ちゃんは来てないと思うけど よかったら聡美さんも行かない? 一緒にランチしよう?」「あっ ごめん。私も主人と約束してるから」「ああ そうよね」 ハグする二人。お互いに見つめながら後ろに歩いていく。だが裕子が人にぶつかりそうな音がする。振り向いて「裕子さん 危ない危ない」 舌を出す裕子。笑いあう二人。「せーの」 裕子と聡美はまた同時に後ろを向いて歩き始める。 船の診察室では部屋をぐるりと眺めているパパのライバル。ドアを叩く音。スタッフが顔を出す。「先生 本当にありがとうございます お疲れでしょう?」「いやぁといいたいがね 君もお疲れでしょう?」「いえいえ それよりよろしいんですか? 裕子さんにシャンパンをプレゼントなさったのは先生なのに」「誘ってもらって嬉しかった でも船からのプレゼントにした方が無難でしょう」「でも」 とスタッフは細長い紙袋を出して医師に手渡す。「ん?」「裕子さんから先生へのプレゼントだそうです 色々お世話になりましたと」「もらっていいのかね」「(小声で)ちゃんと電話番号書いてありますよ」 恥ずかしそうな顔になる医師。 横浜港の公園で歩いている聡美。トンと背中を叩かれる。振り向くと裕子がいる。「どうしたの? まだ行ってないの?」「私 今 考えたの」「何を」「私 一年後 うーん 二年後 クイーン・エリザベス二世号に乗る」「ええー」「パパのライバルと乗る」「そういうことなのね」「聡美さんは?」「私は」「ご主人引っ張ってけば」「あー」「ね じゃぁね」 振り向いてホテルに向かう裕子。呆れて歩き出す聡美。やがてくすくす笑いながら笑いが止まらなかった。 完76 またいつかどこかで