50 続パパのヤキモチ
船のバス慌てて入ってくる裕子。きょろきょろ見回すが田村は見当たらない。聡美は以前知人に会うからバスには乗らないと言った。その時裕子は「ふぅん」と答えたがすごく嬉しそうな顔をしていた。聡美は裕子は田村さんを誘うのだろうと思った。「裕子さーん」 一番後ろの席にいた田村が裕子を呼んだ。とにかく他の女性に囲まれていて出て来れない。女性の一人が前の席にやって来た。「裕子さんも後ろに来ません?」「あぁ」「よかったら 私たちとお買い物しません?」「ごめんなさい 私 一人が好きだから」 機嫌が悪くなって離れていく女性。自分の隣にバッグを置いて外を眺める裕子。 バスが走り出す。ガイドの声が聞こえる。「ピレウスはギリシャの第一の海の玄関口 世界でも指折りの商業港でありエーゲ海への船出の港としても重要な場所となっています」 考古学的な見所をバスで回る。アクロポリスの丘、パルテノン神殿、近代オリンピック発祥の競技場などを見物。後ろの方では田村氏の独壇場でキャッキャッキャッキャッ騒ぐ女性たち。 バスはピレウス港に戻って来た。裕子はバスを降りて一人で歩いている。「別に一人が好きなわけじゃないけどさ」 とブツブツ。 男性の声で「それでしたらご一緒しませんか?」 振り向くと『31 パパのヤキモチ』に登場した船の医師だった。「あっ 先生」「お一人よりは安全パイですよ」「他の人に合わせるのが面倒になっちゃって」「そうですか」「先生は別です」「実は娘にお土産を買いたいんですがね。何がいいからわからなくて」「じゃぁ 免税店がいいですわ」「私の方が助かりますよ」 自然にパパのライバルの腕につかまる裕子。「奥様にしかられそう」「ワイフは上です」 と人差し指で空を指す。裕子はふと思った。同じようなことがあったような、なかったような。それに先生は以前船から上がったような考えると頭が痛くなってきた。「私の主人もよく私のことを『ワイフワイフ』って呼んでました」「ワイフというのは頭が上がらないっていう意味ですよ」 またくすくす笑う裕子。 免税店では仲良く二人連れの裕子とパパのライバル。入りかけて裕子が「あっ」「どうしました」「感じが悪い人がいてバスの中で『一人が好きだから』っていっちゃったんです またあの時の女性」「道理でこっちを見てますよ でも船には沢山の人がいます。一々気にしてたら続きませんよ。すれ違って会釈しましょう」 とにやっと笑う。「子どものいたずらみたい」 バスで会った女性に近づいて会釈する裕子。面白くない顔をする女性。 結局免税店でパパのライバルは娘に裕子の選んだお花のお皿を買って裕子の嫁と娘にも同じお皿を買った。裕子には医師がワインをプレゼント。 二人は買った物が多かったのでバスには戻らずタクシーで船に戻った。スタッフが裕子の部屋まで持っていってくれるという。 「裕子さんのおかげでよかったです。私だったら選べないお皿です」「私も嫁と娘に渡します。ありがとうございます。それより先生、ワイン試飲してみませんか?」「酒類はダメなんです」「えっ、下戸すか」「いえいえ 船で具合が悪くなったら私しか直せませんから。持って帰って日本で飲みますよ」「あぁ そうでした。お医者さんなんですね」「やぶ医者でもね」「また 楽しかったです。ありがとうございました」 と深くお辞儀をする裕子。 その後船の廊下をゴロゴロという音がする。スタッフが移動する。医師は裕子に6本のワインを買ってくれたのだった。