|
カテゴリ: *榎田尤利さん
榎田尤利さんの作品を読むと、家族というものの何かが重要なポイントになっている事が多いように思います。
主人公がマンガ家である‘マンガ家シリーズ’の第1弾『きみがいなけりゃ息もできない』では、‘母性’がポイントになっていましたが、今回読んだ第2弾『ごめんなさいと言ってみろ』は、‘父性’がポイントでした。 どちらも、どこかコミカルで、どこか切なくて、そして幸せな食べ物が登場する作品です… 『きみがいなけりゃ息もできない』は、生活能力のない相当困ったちゃんなマンガ家と、幼馴染でずっと彼の面倒を見続けていた老舗美術商の次男坊の物語です。 放っておけば、部屋は非分別ゴミ置き場状態になるし、原稿は手付かずだし、自分で自分を放置状態にしてしまうので、見るに見兼ねて次男坊は世話をし続けるのですが、ある日ほんの些細な変化から、マンガ家の人としての成長を妨げているのはむしろ自分ではないかと気付き、そして自分の想いにも気付き、かえって相手を束縛できなくなってしまいます。 急に放置されてしまったマンガ家は、自分があまりにも駄目過ぎたのでとうとう愛想をつかれてしまったと思い、自分がちゃんと頑張ったらまた彼にも会えるかもしれないと、何とか一人でやっていこうとします。 でも二人にとって、別々の時間は淋しいばかりで…とても切なくて… だから、次男坊は嬉しそうに世話を焼き、マンガ家は嬉しそうに面倒をみてもらうハッピーエンドが、とっても嬉しかったです… 榎田さんの作品に出てくるお料理がどれも美味しそうで、読んでいてお腹がすいてしまうのは良くある事ですが(たとえば『誓いは小さく囁くように』のカルボナーラ…!)、この作品では鶏団子の鍋とホットケーキが幸せのメニューです。 鶏団子の鍋は自分でも作るので、あの美味しさは良く知ってます(あれ、鶏団子をいくつか残しておいて御飯を入れて、団子を崩しながら食べるのがまた良くて…)。 でも私が何だか憧れてしまったのは、ホットケーキの方でした。ムラのない綺麗な焼き色で、ふわふわの二段重ねで、バターがとろりと溶けてメイプルシロップがたっぷりかかっているホットケーキ… お腹がすいてる時に、こんなのを焼いてすっと出して貰ったら、どんなに嬉しいでしょう! 何だか、手の込んだ料理より嬉しくなってしまいそうな、不思議な喜びを感じてしまいます。それは、ホットケーキに郷愁があるからかもしれません。子供の頃、母親が作ってくれた最初のおやつかもしれないと思うので(手作りのマドレーヌとかクッキーとかは、もっと後です。私の子供の頃、まだ台所にオーブンは常設されていませんでした…)。 母親の愛情は、時として子供を抱え込んでくるみ込んでしまうので、母親も子供も身動き出来なくなってしまう事態もないとは言えないようです。それに気付いて怖くなった次男坊の気持ちも解るし、繋いでいたはずの手を急に離されてしまったマンガ家の心細さも良く解ります。 見方を変えれば、お互いがお互いに依存している関係とも言えるのですが、‘依存’という批判的な言い方ではなく、お互いがお互いを必要としている関係と微笑ましく思いたい二人なのです。 まぁ、マンガ家の凄まじい駄目っぷりには、本当に身近にいたら日々怒り心頭かもしれませんが。 幼馴染のスーパーお世話焼きの次男坊は、実際に居て欲しいなぁと思います。 私も、お世話してもらいたい… 『ごめんなさいと言ってみろ』は、売れっ子マンガ家と売れっ子小説家の物語です。 出版社のパーティーで些か宜しくない出逢い方をした二人に、小説とマンガのコラボレーション企画が持ち込まれ、強情で傲慢な二人は意地の張り合いをするのですが、お互いの仕事を認めた時企画は順調に動き始め、そして二人の関係も少しずつ近付いていきます。 小説家は、自分に対抗してくるマンガ家を小突いたり突き放したり、仕事をやり遂げて疲れたマンガ家を甘やかしたり包み込んだり、それは実に父親的だなぁと思いました。 マンガ家は早くに母親を亡くし、多忙な父親からは放置されて育ったところがあるので、小説家の父性には無意識に惹かれていたのでしょう。ただ甘えるのではなく年長者に向って行く気概がある分、男同士の丁々発止としたやりとりも楽しんでいるような気がします。 小説家には実の娘がいて、離婚して普段は離れ離れに暮らしているものの、なかなか良い父娘関係のようです。スパゲティの茹で具合についてケンカしたり、行方不明になったのを探しあて抱きしめる様子など、深く伝わるものがあります。 だから、マンガ家の切なさも良く解るのです… この作品の幸せのメニューは、プリンです。 マンガ家の大好物がプリンで、それは高級なものではなくコンビニで売られているもので、しかもカスタードプリンではなくゼラチンで固められたモノがプラスチック容器に入っている、一番昔からある、つまりプッ○ンプリンなのです。 私も子供の頃は良く食べました。あの容器の底をプッチンする方法を考えた人は、本当に偉大だと思います…あのプッチンする瞬間って、ドキドキだった… 子供の頃、母親が手作りしてくれたおやつは、あるいはプリンだったかもしれません。市販のプリンの元を温めた牛乳に入れて冷蔵庫で冷やしたり、そういえばポットのお湯でプリンの元を溶かして冷蔵庫で固めるだけなんていうモノもあったような気がします。 そして、たいていどこの家庭にもプリン型があったんでした。ケーキ屋さんで買ったプリンの空き容器(ウチに有ったのはモ○ゾフだった…)を、利用したのが殆どだったけど… 言ってしまえば、ただインスタントの粉を溶かして固めただけなのですが、それでも母親が手作りしてくれたという感じがしたのです。 だから、プッ○ンプリンには郷愁があるのだけど、同時に、市販のモノだというあたり、やっぱりちょっと切ない… ヒトに作って貰った美味しいモノって、結構記憶に残り続けるような気がします。 榎田さんの作品に登場する男性は料理上手が多くて…まぁ『ラブ&トラスト』のフミのよーな凄いのも居るけど…やっぱり男の料理って得だよなぁと思ったりします。 女の料理は日常に過ぎないけど、男の料理は芸にもなるしねぇ… どんなにささやかでも美味しい食事をちゃんと食べるって、大切な事だと思います。 ‘餌付け’って言葉は悪いけど、でも結構重要なポイントだと思うし…長続きする…… 『きみがいなけりゃ息もできない』 2003年9月 ビーボーイノベルズ 榎田 尤利 * 円陣 闇丸 『ごめんなさいと言ってみろ』 2006年8月 ビーボーイノベルズ 榎田 尤利 * 北上 れん お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.04.05 20:55:02
|