|
カテゴリ: *榎田尤利さん
「BLにおけるかっこいいヤクザは経済ヤクザ」と、きっぱり言い切った御担当様。
まぁ、その通りっちゃぁその通りなんですが、そう画一化しなくたって良いじゃぁありませんか。 何しろ、アナタの御担当されてる作家さんて、榎田尤利さんなんですよ。 ポッと出のまだまだご指導ご鞭撻が必需な新人さんとは違う、はっきり言っちまえばBL界屈指の作家さんですよ。 それにね、読み手側もそう舐めちゃぁいけませんや。 多数決とりゃ、そりゃぁイメクラ経営してたり国産車乗っちまってるヤクザより、仰る通り「なにをしているのかいまいちわからないけど、お金持ちなヤクザ」の勝ちでしょうよ。 でもね、要はその作品なんですよ! その物語の読み応え、その登場人物たちの存在感こそが重要なんです! 単なるイメージや見てくれや、シチュエーションや、そんでもって絡みばっか並べてみたって、こっちは萌えやしませんよ! アナタもお仕事だから、そりゃぁ売れる商品じゃなきゃぁお困りでしょう。出版業界のご苦労は、身内にそのテの仕事をしてるのがおりますから、ちったぁ存じておりますよ。 でも、そればっか追っ掛けてちゃ、本筋を見失っちまいます。 もう実際、画一化やらテンプレ化やら、他所様の商品見てりゃぁ感じるでしょう? アナタのいらっしゃる大洋図書さんは、数多あるBL関連業者の中でも、BLに関する良識や見識を感じるんですよ。だから、いくら業績を伸ばしたくったって他所様の路線に行っちまったらいけませんや! ほら、ノベルスのサイズだって他所様のみょうちきりんなB6崩れたぁ違う、新書サイズを守ってらっしゃるでしょ。 毅然として、大洋図書さんらしい姿勢を貫いて下さいよ! 読み手側は、ちゃんと見てますよ!!! ……言っちまった…いえね、あとがき読んで、これは黙っちゃいられねぇと…つい。 と、いうわけで、私が読んだのは、榎田尤利さんの『交渉人は黙らない』でした。 やぁ~!面白かった!!! 流石、榎田さんだ!と、大喜びして読了して、そしたら‘あとがき’が、アレですもん…どうよ!? んでもって、悪態ついでだから言っちまうけど、この奈良千春さんの表紙も秀逸でしょう!? 挿絵のひとつひとつも、鮮やかに物語の一場面を描写して見事です! で、最後の最後に、ガッツリと魅せてくれる253頁!!! ありがとうっ!!! 表紙から口絵から中の絵まで、やったらめったら裸ってのが多い昨今、魅力ある表紙ってぇのはこういうもんだ! 挿絵というのはこういうもんだ!って、見事な証明ですよ。 だからね、表紙っから裸である必要は無いし、内容たって絡みばっかなもんに食指は動かないんですよ。 要は、作品の質です!!! 最近、こればっか言ってるね、私…… 物語は、主人公である交渉人の一人称で語られるのですが、序章と終章を他者視点で語る手法が、実に見事です。 序章で、主人公の容貌を「水商売をするには聡明さが出すぎ」「会社員になるには必要以上に色男すぎる」と第三者の目で描写している為、主人公がとても鮮やかに存在感を持って印象付けられます。 挫折も苦節も絶望も慟哭も全てを経た上での、現在のこの主人公の在り様は、ここに至るまでを想像するだけで大変な物語になるでしょう。 でも、それは単なる個人的な過去に過ぎないと嘯くように、主人公は実に見事に生きています。 そして、次章からは主人公の一人称が小気味良く始まり、テンポ良く物語が一気に動きだし、登場人物一人一人が活き活きとしています。 また、舞台となる両国から錦糸町という町の持つ味わいが、実に魅力的な小道具になっています。東京の古い町の人懐こくちょっと猥雑なニオイのある、決して洗練されていない町の居心地の良さがとても伝わってきて、そんな町に暮らしている人間達が実感できるのです。 物語の発端は、交渉人となった主人公の前に、高校時代の下級生が現れた事でした。 彼は現在、つまりヤクザの幹部になっているわけですが、彼のシマに主人公が事務所を開いて半年になろうとした頃、いきなりその事務所を訪れたのです。 つまり、彼としては、主人公の存在を知っていながら半年我慢してきたわけで、そもそも高校時代から執着があったにもかかわらず、諦めて身を引いていたのは実は彼の方だったという事実があるのです。 また、過去に1回だけ具体的な関わりがあるのですが、それは結果として主人公が自分自身の‘生’を取り戻す切欠になっています。 だから、再会したとたんヤクザは主人公に対し迫りまくるのですが、彼の執着振りに執拗さは感じても、強引で傲慢なものは感じられません。 主人公も、時に意地を張りながら、自分自身に戸惑いながら、でも徐々に彼を受け入れていく様子が伝わってきます。 結局は、30代の男同士の些か不器用な関わり合いで、でも表面は小気味良い言葉のやりとりがまるで夫婦漫才のような、実に魅力的な一対なのです。 主人公はかつて検事であり、その後弁護士になり、しかし現在は何故交渉人になっているのか、その肝心な部分はまだ語られていません。 主人公の魅力的な交渉術をもっともっと聞きたいし、そして、交渉人とヤクザの夫婦漫才をもっともっと聞きたくてなりません。 榎田作品の中に在って、屈指の鮮やかさをもつこの物語。ぜひともシリーズ化を!!! 『交渉人は黙らない』 2007年2月 SHYノベルス 榎田 尤利 * 奈良 千春 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.03.03 11:39:57
|