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ある内科医の独り言

ある内科医の独り言

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2006.03.22
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去年の4月1日、エイプリルフールの日記で「失職」と題した一文を掲載したが今度の4月1日には本当に失職することとなった。まぁ、次の就職先は決まっているので「転職」という言葉の方が適切かもしれないが、何れにせよ僕はこの病院を去ることにした。

理由はいくつもある。その中で最も大きな理由が「精神的負担が大きすぎる」と言うことだ。幸いにもまだ若い?のでタイトなスケジュールでやって来る当直などはまだ何とかしのげるほどの体力がある。しかし精神的な余力はほとんど残っていないという他ない。

何度かこの日記でも取り上げているが僕は「一般内科」医だ。消化器を中心として活動してはいるけれども別に看板を掲げてやっているわけではない。循環器科や呼吸器科などと違い、あくまでも専門性は謳わず勤務してきた。

今の病院にご厄介になったのはもう5年ほど前のことだ。当時は(今でもそうだが)駆け出しの内科医でまだまだ知識や技術も乏しくこれからさらに経験や勉強を積み重ねていかねばならなかった僕にとって、数百床もある巨大な病院は魅力的だった。スタッフドクターも40名超と大勢いたし、何よりも「総合医局」という環境がうれしかった。隣に机を並べているのは外科の先生だったり整形外科の先生だったり……人事異動でドクターが入れ替わるたびに席は少しずつ様変わりし、いろんな先生方と話をすることが多くなった。その筋は「プロ」であっても他のことになると素人同然という先生も多く、僕が消化器をしている都合からか食思不振や下痢など、いろんな相談が持ちかけられたりした。僕みたいなペーペーの医者にでも腰を低くして質問などされるとこっちが逆に恐縮してしまうシーンなども多かったし逆に、違うジャンルのことでもすぐに質問したり助言をいただける環境はすばらしいと感じていた。

そんな病院だったから当時の僕にとってはとても魅力的に思えたのも当然のことだった。症例も多く、できてまだ3年程というハードのよさなども魅力的だった。ここで仕事をすればもっと自分の力を発揮できる、そう思っていた。

しかし現実はそんなに甘くはなかった。多いと思えたスタッフも、いざ仕事をしてみると明らかに人員不足の感が否めなかった。特に内科はそう思えた。専門を謳っていないのだから「血を見る」「けがをしている」「小児」「産褥婦」以外はほとんど内科の仕事だった。最初から専門科がわかっていないのだから当然といえば当然のことだったが、明らかにキャパシティーを越えていた。

当直に入っても「3日前からの咽頭痛」から出来立てほやほやの「CPA」や「死体」まで、とにかく何でも「診てくれ」の一点だけだった。院長や事務長なども「断らずできる限り診るように」との一点張り。救急を断ろうものならその件数や内用が詳細にカウント・チェックされ、呼び出しか掲示されるという始末。とても役所の仕事とは思えない程シビアだった。それでも内科のDr.はお人よしが多いのかぶつぶつ文句を言いながらも耐えてやってきていた。

しかし人はいずれ疲弊する。一人去り、二人去り……。決定打は2年前の副院長の退職だった。お人よしの代名詞とまでいわれた副院長が「辛い」という一言を残して職場を去った。病院は後任を探したが結局見つからずじまい。副院長のポストは空席のまま、職務は続行された。

運悪く大学医局も崩壊していた。移入教授の人事方針変更・凍結人事。さらには臨床研修制度義務化。もう、どう考えても「終了」している感じだった。どこを探しても医者がいない。病院に限らず大学でも、だ。今まではストックしてきた貴重な戦力を適宜ローテートさせるのが大学の役割だったが、その戦力すら確保できない状況ではどうしようもない。ローテート先の病院で欠員が出たとしてもそれを補充するだけの力はすでに大学には残っていなかった。

仕方なく、欠員が出たままで職務を続行しなければならない。しかし、相変わらず受診者数は変わらない。むしろ着実に増えている。そして一人で処理できる患者さんの数は自分の限界を超えていく……。病院側はそれでも「断らずできる限り診るように」を連呼し続けた。医者には診療義務・応召義務もある。目の前で苦しんでいる人がいれば救いの手を差し伸べるのは当然だろう。しかし、そんな善意ややる気を無にするような輩(患者さんといあわずあえて輩と呼ばせてもらいたい)も大勢いるのは確かなのだ。検査を指定したり薬を指定したり、並ばなくてすむからとわざわざ夜間にやってきたり……。いつからの症状かと聞いてみたら2年前からだとか……。3日ほど前から39度近くの発熱で夜間に受診した患者さんに「今までどうしていましたか?」と訪ねてみると

「今朝方までディズニーランドへ行っていました」

とあっさり答えられる始末。いま、この患者さんに必要なものは医者や薬や病院ではなく「安静」なのではないだろうかと自問自答……。

結局、その場限りの訳のわからない診療を続けることがいやになってやめることにした。どこに行っても同じなのかもしれないけれども。

そして同じ釜の飯を食ってきた同僚の退職も結構堪えた。僕自身がこんなだから同僚が「退職する」と言い出したとき、止める言葉を持たなかった。辛い環境は十分わかる。わかっているからこそ彼自身の人生を自分の思うようにさせてやりたいと思えたのだ。結局、彼が退職したことで2人がかりで協力してやっていた検査や処置などは全くできなくなってしまっていた。今までできていたことができなくなる、それを肌身に感じた瞬間だった。

いろんな理由があって今の職場を去ることにした。もうこの病院には4月以降一般内科はいない。地元のメディアでも小さく報じられたが、この先のことはどうなるかはわからない。一番迷惑しているのは患者さんだということは十分わかっている。しかし、僕自身が患者さんに潰されてしまうわけにはいかないのだ。

上層部は相変わらず「残ったドクターで心を一つにして……」と精神論をぶちあげている。まぁ、わからないでもないけれども「じゃぁあんたが率先して当直してみたら?」と愚痴の一つもいいたくなる。

「ある内科医の独り言」は愚痴中心の雑談系。これくらいはいっておかないと気が済まないが、いったところで何も変わらない。いるのは目の前の患者さん。真摯に対応していけるかどうかの一抹の不安は残るが、それでも仕事を続けなくちゃなぁ、と思う。医者をやっていて良かったと心から思える日が来ることを信じ、邁進していきたい。

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最終更新日  2006.03.22 15:29:16
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