そろそろ幕を降ろしましょう・・・
当時、彼女は東京の美術大学を既に卒業して皮染めのアルバイトをしていた。飛行機代に少しお金が貯まると、札幌にやって来た。彼はいつも授業が終わると、雀荘でマイナー・チームとジャラジャラ。夕飯もそこで中華丼なんぞを食べていた彼は、その時には、いそいそと帰って行く。仲間は、「彼女が来てるのか?」と・・6畳一間の下宿の部屋には、狭くてわずかばかりの流しと小さなガス・コンロがひとつ。机と本箱。不似合いなステレオ。病院から払い下げたパイプのベッド。高さがあるので、下に小さな箪笥がはいる。石油ストーブ。卓袱台ひとつ。食事の前に、連れ立って角の風呂屋へ。「神田川」 そのまんま。 ♪ 貴方は もう忘れたかしら 赤い手拭い マフラーにして 二人で行った 横丁の風呂屋 「一緒に出ようね」って 言ったのに いつも私が 待たされた 洗い髪が芯まで冷えて 小さな石鹸 カタカタ鳴った 貴方は 私の身体(カラダ)を抱いて 「冷たいね」って 言ったのよ 若かったあの頃 何も怖くなかった ただ貴方のやさしさが 怖かった ♪♪食事の支度をしてもらっている間、レコードをかけ本を読む振りをしながらそっとその姿を、眩しそうに眺めていた。授業の無い時には、遅めに起きてコーヒーを淹れる。湯気で曇った窓ガラス。指先で描いた二人の名前。1週間ほどの滞在のあと、部屋に戻っても、だれも居ない・・・流しの片隅にセッケン箱がふたつ。机の上には読みかけのニーチェと、書置きの紙切れに添えられた白いチョコレートと折り鶴が一羽。(5)はかぐや姫の「神田川」、だと思うでしょ?でも、違います。「ツァラツストラはかく語りき」 デオダート 当時、チック・コリアやキース・ジャレット等と同じくらい デオダートのジャズ・ピアノが好きでした。 「ツァラツストラはかく語りき」はニーチェの本の題材を基に リヒャルト・シュトラウスが作曲したもの。 デオダートがアレンジしたレコードを、今でも大切に持ってます。