カテゴリ:Lily
思いの他、煩いにもならぬ程の微少なる性を感じ、僕はこれまでに感じてきた多くの温もりが虚偽のものであったかのように感じている。あの、夢に満ちた純粋で、直進的で、時に子供が悪戯をした時に浮かべる、何処か屈折しながらも渇きを匂わせるあの顔を空想の中で刻むと、僕にはこの世界では情緒なんてものが全く、完全に、不必要なもののように思えてくる。あの綺麗で崩れ落ちる程に繊細な(夢と呼ぶには聊か残酷な)一夜のことを想うと、僕のこの身体に蠢く多くの情緒は抜け落ち、まるで風船の如く空っぽな浮遊物になるのだ。 愛は優美で、愛は僕にとっての道徳だ。前後左右さえ掴めず、ただ溢れんばかりの情欲と恋の罪悪とを空ろに横たえていく。 麻薬や病などという名の知れたものではなく、ただ、なだらかに其処に揺蕩う感情の連鎖を想わせる。僕は、いつからか夢遊病者の如く夢遊びをしているのだ。眠れぬ夜の、眠らない夜の、淫靡に満ちた夢遊び。其れが深みある道楽であればある程、僕はあの人に連帯感を結び、一層激しく胸の迷いを掻き立てるのだろう。 僕はまだ僕だ。まだ今は僕という存在だ。僕の中を蠢くあの根源的悪はまだ吐息さえ僕に漏らさない。けれど確かに僕の奥底に在る。僕はまだ僕だ。どれだけ夢が僕を侵し、ささいなる至福とを掲げようと、僕はまだ、僕だ。それが新鮮で、何処か歯痒さを残してゆく。 碧。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 17, 2007 04:39:52 AM
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