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カテゴリ:楽園に吼える豹
ガーディアン・ソルジャーでただ一人の女性。
そのように生まれついたアスカ。 それゆえに、アスカにしかできないこともある。 “主人(マスター)”のパートナーとしてこのようなパーティーに出席することもその一つだ。 男のGSではこうはいかない。 だからアスカは、パーティーできちんと“主人(マスター)”の相手をつとめられるよう、半ば強制的にダンスだの淑女のたしなみだのを学ばされた。 その甲斐あって、こういうフォーマルな場でも彼女は恥をかかないで済む。 が、淑女のたしなみを学習した成果が普段の生活に現れることはなかった。 嫌々やらされたことを、日常生活にまで持ち込みたくはなかったのだ。 仕事でその成果を発揮できれば十分。 アスカはそう考えていた。 だが、その成果が発揮されることは、この時までなかった。 “主人(マスター)”のパートナーをつとめるまでにアスカがクビにされてしまうからである。 今回はそうならなかった、きわめて希少な例といえるだろう。 「お前さあ、ああいう女が好みなのか?」 声を潜めてアスカが尋ねてくる。 どうやらリリーのことを言っているらしい。 藤堂は答えるのも面倒だった。 無理やり付き合わされたダンスは、露ほども楽しくなかった。 しかもリリーから解放されたと思ったら、何故かアスカと二曲目を踊る羽目になっている。 藤堂が黙っていると、アスカは珍しく言いにくそうにこう切り出した。 「あたしが口出すことじゃないと思うけど……あいつはやめたほうがいいぞ。 あいつ性格悪りぃから。まぁ親父がろくでもない奴だから、遺伝だな、ありゃ」 「ろくでもない?」 アスカはリリーを知っているらしい。 そしてその父親も。 藤堂は少し意外に思った。 リリーの父親、バオ・チャン大佐は軍の幹部でアスカの元“主人(マスター)”だったということは聞き知っていたが、その娘のリリーまで知っているとは。 “主人(マスター)”は知っていても、その家族と知り合う機会などあまりないように思えたから、不思議だった。 「ま、あたしが右ストレートぶちかます程度にはろくでもない、ってことだよ」 「…………」 アスカは、リリーの父親・チャン大佐からいろいろと嫌がらせを受けていたことは黙っていた。 アスカ自身は別に気にしないが、こんな場所でわざわざ言うことでもないだろうと思ったのだ。 で、そのチャン大佐との短い付き合いの中で、アスカはリリーと大喧嘩をやらかしたのだ。 チャン大佐の休暇にボディーガードとして付き合わされたとき、リリーはこともあろうに、アスカに荷物持ちを命じたのだ。 あのアスカに荷物持ちを命じるなどということはかなり勇気のいることだが、リリーは世界有数の怖いもの知らずだったらしい。 その後も何かとアスカを召使い扱いするので、アスカがキレたというわけだ。 その時聞かされたアスカの愚痴を、レオンは覚えていたのだ。 もっとも、リリーのほうは全くアスカのことを覚えていないようだったが。 藤堂はリリーの正体を知っても別に何とも思わなかった。 アスカに言われなくても、彼女と付き合うつもりなどない。 「でも……」 そう呟いたアスカは俯いていた。 彼女は藤堂の肩までしか身長がないから、下を向いてしまうと表情をうかがい知ることはできない。 だがゆっくりと顔を上げ始めた。 下から藤堂を見上げる形になる。目と目がぶつかる。 これほど近い距離でアスカの顔を見たのは、初対面のときに彼女に掴みかかられたとき以来だろう。 「たとえ嫌いな相手だって、傍に寄って来てくれるだけまだマシだよ。 ―――一人きり、よりは」 その時見たアスカの表情は、藤堂が今までに見たことのないものだった。 怒るか笑うか。極端に分ければその二つしかなかった彼女の感情表現。 それに今初めて、「哀」に近いものが加わった。 どこか寂しそうな、ひょっとしたら泣き出してしまうのではないか、そんなことを思ってしまうような、表情。 「…なんてな」 藤堂が沈黙しているうちに、アスカの顔は元に戻った。 いつものように、勝気でどこか自信に満ちた表情に戻っている。 さっきの表情は何だったのだろう。 震えるような寂寥感。彼女の瞳にそれを感じたのは、単なる気のせいなのだろうか。 つづく ネット小説ランキング、人気ブログランキングに参加しました。 よろしければぽちっと押してくださいな♪(*^▽^*)ノ ↓ ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「楽園(エデン)に吼える豹」に投票 メリークリスマス!!(*^▽^*人) 本当ならイラストの一枚でもアップしたいところだったんですが、時間が取れなくて(>_<) なので、いつもより早く小説の続きをアップしました。 お正月は記念イラストを描きたいなぁと思っているのですが、私に着物が描けるとは到底思えないので、描いたとしても正月らしくない絵になると思われます^_^; お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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