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カテゴリ:楽園に吼える豹
『聞こえるか、諸君? これから私の言うことをよく聞きたまえ』
ボイスチェンジャー特有の不自然に甲高い声。 「何だ!!?」 アスカたちはそれぞれに顔を見合わせる。明らかに変だ。 ただの放送とは思えない。 『このテクノスクウェアはたった今から私の支配下に入った。私の要求が聞き入れなければ、今から三時間後にこの建物を爆破する』 「!!」 「何だって!?」 レオンは急いで、他の護衛たちが入っていった部屋に備え付けられている指紋認証システムに指を当てた。 だが開かない。 コンピュータはうんともすんとも言わなかった。 ドンドンと、扉を叩く音がする。 部屋の中にいる人間も、異変に気付いたようだ。 『私の要求は一つ。リー・ディック・セロの“罪”を明らかにし、正義の鉄槌を加えること』 (セロ長官……!?) あの、どこか蔑むような目つきでアスカを見た顔が浮かんだ。 『リー・ディック・セロは速やかに過去の過ちを告白せよ。そして跪いて懺悔するのだ。 ―――私の名はフェレク・イーツェフ。この名を脳に刻みつけよ』 「―――フェレクだって!?」 レオンとユキヒロが驚いたように顔を見合わせる。 だがアスカには聞き覚えのない名前だった。 二人の知り合いだろうか。 戦慄の放送は、更に続く。 『幸運にも閉じ込められなかった者は即座にここから出ることだ。 この放送が終了して十分経過しても建物内に残っている場合には、予定を繰り上げて爆破する。 セロの命、いや自分の命が惜しければ命令に従うことだ』 そこまで一気に淀みなく機械的な声が発せられると、ぷつりと音が途絶えた。静寂。 どうやらここでフェレクとやらの言いたいことは終わりらしい。 三人はしばし茫然とした。 全く予想もしていなかった事態だ。 アスカはふらりと無意識的に藤堂のいる部屋へと足を向けかけた。 「アスカ」 それをレオンが止める。 このテクノスクウェアの中では自分たちは完全に異邦人だ。 どこに何台監視カメラが仕掛けてあるのかわかったものではない。 「下手に動けば藤堂さんが死ぬ。……ここは犯人に従うしかないよ」 アスカは一瞬躊躇したが、レオンの言うことは的を射ている。 ここは一旦退くしかない。 エレベーターは止まっていたので、アスカたちは非常口から外へ出た。 非常用の扉はさすがにコンピュータ制御されてはおらず、難なく脱出できた。 外は風が強かった。 寒気がする。 非常階段を下りる途中、眼下にルビア共和国首都のビル群が臨んでいる。 その中で一層高くそそり立つのは、ルビアの経済の要、ヘイズ・タワーだ。 この地域には靄(もや)が頻繁に立ち込めることにちなんで名付けられた。 藤堂は無事だろうか。 鳥肌が立った。 こんなふうに手も足も出ない状況になったのは初めてだ。 (ゴウシから藤堂のこと、頼まれてたってのに―――!!) 歯噛みしたくなるほど悔しい。 しかも今回のは、藤堂には全く無関係ではないか。 セロの巻き添えで死ぬなんて馬鹿げている。 そんなアスカの心中を察したのか、 「アスカさん、大丈夫ですよ。現地の警察がきっと何とかしてくれます」 と、ユキヒロが言った。 心の乱れを、GSを退いた彼に見破られてしまった。 「……わかってる」 ユキヒロの優しさと心遣いの細やかさには素直に感謝したいが、アスカは少し自分が情けなくなった。 平常心を失ってしまえば、守れるものも守れない。 アスカは改めて気を引き締めた。 ネット小説ランキング、人気ブログランキングに参加しました。 よろしければぽちっと押してくださいな♪(*^▽^*)ノ ↓ ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「楽園(エデン)に吼える豹」に投票 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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