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カテゴリ:小説 江戸珍臭奇談 貸し便お菊
江戸珍臭奇談 23 貸し便お菊 13 尻の穴緩めすぎちゃいけねえな、 「 貸し雪隠お菊の間」の隣には「貸し便屋桔梗亭」ができ、貸し便屋を利用する江戸の者は裏の事情も知らずに、便利になったと喜んでいた。 だが、貸し便屋の近くに住む町の人々は憤慨していた。川や堀にうんこがぷかぷか浮いている、嫌な臭いが堀から湧いてくる。 「これじゃあ、鯉も泥鰌も鰻も蜆だって、臭くて食えねえよ!」 「死ぬのに綺麗も穢ねえもねえが、うんこが浮いてちゃ身投げもできねえやぃ!」 「この堀じゃ洗い物もできやしねえ、町役人さんなんとかしてくれ」 掘の近くに住む住民から抗議の声が町役人に寄せられ、町名主は連名で、奉行所に訴えた。 訴えは老中の耳にも届き、水野忠邦は、糞騒動に巻き込まれた南北奉行所の処置に頭を痛めていた。 「幕府がご政道の改革を進めねばならぬ時に、こんな下らぬことで足踏みしおって、遠山、貸し便屋はすべて取り潰せ、喧嘩両成敗にせよ、後々しこりの残らぬように、しかるべき裁定をせよ、よいな、」 北町奉行遠山左衛門尉影元は苦虫を潰していた。囲碁狂いの見廻り同心真壁平四朗が役宅に呼ばれていた。 「お主も知っていようが、お菊とかいう女と尻毛の桔梗とかいう女が貸し雪隠をやっているようだが、奉行所に苦情が来ておる。堀にぷかぷかうんこが浮いては町の者も堪らんだろう。なんとか取り締まれぬのか?」 「はっ、お菊の間のほうには熊五郎が一枚噛んでいるようで、糞の始末は熊五郎の手で始末してるらいいのですが、、尻毛の桔梗は金無しの音次の色でして、裏では鳥居様が指図しているようで、迂闊に手出しはできそうにもなく、かといって、糞を始末しているお菊の方だけを取り潰しにするのも道理に適わぬことでございまして、」 「ふっーん、そうけえ、尻毛の桔梗の方には南町の鳥居が絡んでいたのか、こいつはまた面倒なことになりそうだ」 北町奉行遠山左衛門尉影元はお菊と尻毛の桔梗の両名をお白州に座らせてた。 「お前たちが営業している、貸し雪隠は町民から苦情が多数寄せられている。河岸端(かしばた)や下水の上に小屋を作って雪隠としては、掘割が汚れて、これでは、泥鰌も食えぬ、洗い物もできぬ、とな、、」 「お奉行様、お菊の間は糞尿はおから村の熊五郎に頼んで回収しております。堀を汚すことはしておりません。汚しているのは垂れ流しの桔梗の間でございます」 「お菊の間では糞壺をくみ取っていると申しますが、ぴしゃぴしゃこぼして、掘割を汚しております。それ桔梗亭も葛西の権四郎様にお願いして糞尿の回収の手筈もつけておりますゆえ、もうしばらくの御猶予をいただきますよう、お願いします。」 お菊も尻毛の桔梗もひるまず、異議申し立てをする。 「両名の者、よく聞け、江戸市中に貸し便屋の幟があちこちに立ってはみっともない、他国の大名にも笑われている始末だ。糞尿は自宅で済まし、街中を歩くときには尻の中を空にして歩くのが常道というものだ、いつでもどこでも気軽に排便できるなどということは、人民がだらしなく、ふしだらになり、尻の穴がますます緩くなり、始末に負えぬこととなる。そのような風潮は正さねばならぬ。 それに、堀の上とはいえ、そこは町の所有物であり、町が管理しているところである、つまり、不法占拠である。その町役人から苦情がきておるのだ。したがって、貸し便お菊の間も桔梗の間もとり潰しだ、早急に撤去せい!」 「しかし、お奉行様、それでは町の人がお困りではないでしょうか」 「うむっ、そうじゃのう、そちたちが尻の穴を緩める手伝いをしてしまったからのう。だが、掛け茶屋には必ず厠を用意すること、茶店や神社にも無料で厠を貸すという、厠を用意していない店は営業まかりならぬという触れを出すことにした。 つまり、これからは、町中でもようしても、困らぬ江戸にするということだ。」 お菊も尻毛の桔梗も御上の裁定には逆らえなかった。 これにて一件落着!!べんべんべん、かしべん、 「貸し便お菊もお終えだってよ、お菊の尻穴、菊模様の肛門様も見納めだいっ!」 貸し便屋取り潰しの瓦版が江戸の町に舞い、江戸っ子はさらっとして笑い飛ばし、 暫くして、江戸の町から貸し便屋は姿を消した。 やることがなくなったお菊とへの字は、宗兵衛長屋で、ぽかんっと口を開けて暇していたが、日暮れがやってきて、からっぽな気持ちを紛らわそうと、徳利をぶら下げて、大川の土手へ出た。暮れ六つをすぎて、提灯や行燈をぶら下げた船が行き交い、 船の中から賑やかに三味や唄が聞こえ漏れてきていた。 「いいねえ、船遊びは、そうだ、長屋の連中で船遊びしようよ、なあ、への字、貸し便屋で稼いだ金がむずむずしてるんだもん、」 お菊は佐賀町の船宿から屋根船を借りて、長屋の連中、もちろん、大家の宗兵衛に見廻り同心真壁平四朗と、手習い師匠の柳井文吾も招待し、大川を両国橋から、花川戸の方まで、船を走らせた。棹捌きのいい若い船頭の着流しの裾が川風に翻るがえり、長屋のおかみさんは、きゃっきゃっと、はしゃいでいた。
三味線と小唄の深川芸者が花を添え、上や下えのどんちゃん騒ぎは浮世の垢を忘れさせてくれた。 お菊の鬱屈していた気持ちも川風で流れていくようで気持ちがよかった。長屋の者も大はしゃぎ、料理も酒もたらふく飲んで食べ、唄い踊って、船が舳先を変えて、佐賀町へ引き帰そうとした頃、誰もが尿意で下腹部を膨らませていた。 男どもは船の障子を開けて、気持ちよさそうに川へ流れ小便でいいが、女はそうはいかない。 「ああ、おしっこが漏れそうだ、リンダ、もうどうにもとまらない、」 「船べりからしやがれ、誰も腐れ毛饅頭なんか覗きやしねえよ、」 「ちゃんと簾を下げといてよ、覗いちゃいやあーん、 」 あれっ、お菊にも久々頻便がやってきた。船には厠がないっ、あれっ、困った。 私のは腐れ毛饅頭じゃない。誰にも見せるわけはいかない。 その経験から、お菊はあることを思いついていた。 「おいっ、への字、また忙しくなるからな」 つづく 朽木一空 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年10月23日 08時48分42秒
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