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江戸こぼれ話 笑左衛門残日録

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2019年10月25日
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  ​​​江戸珍臭奇談 25  貸し便お菊 15 最終回




 貸し便船『お菊の間』、大川を走る

 屋敷では奉公人や寺の坊主が忙しく動き、葬儀の準備が進めれれていた。
お菊は古着の木綿の着物のままだったので、皆から異様な目で見られていた。
 下女の手伝いよりもみすぼらしく見えたので、吾助がいなければ門前払いだったかもしれない。
 奥の間で、父は布団に寝かされていた。痩せ細って、まるで骨川筋衛門、逞しく、威厳のあった父の面影は消えていた。
 兄の覚之助と姉の美雪、母のお房が顔を突き合わせて、なにやら相談していた。
 お菊を見ても、「何しに来たのだ」というような、冷たい目を向けただけで、すぐにひそひそ話を始めた。
「だから、二千石の旗本とはいってもね、札差しにはもう来年の切米手形分まで借りてるし、あちこちの商人に借金だらけで、首がまわらないのよ、葬儀代の百両なんてあるはずもなく、それに私はもう梶井家を出た人間で、今は早乙女家なのよ無理よ無理無理、」
「そうか、早乙女家も火の車か、旗本御家人などと威張ってはいても、みな貧乏侍だ、ああっ、借金棒引き令でもでもなけりゃあ、、武士はみんな共倒れだ。」
「何を情けない、かりにも一千石直参旗本ですよ、恥をかかぬよう立派な葬儀をださなければ、名家の名折れよ、父上が御他界されたというのに」
「でも、母上、どこの商人も高利貸しさえ、金を融通してくれと頼んでも、逃げ口上ばかりで、相手にしてくれません。刀や鎧を質に入れれば、何とかなるが、そんなことはできないでしょう。いざ鎌倉となったら、直参旗本が徳川を守るのだ、そのための旗本なんだから、
 もし、刀や槍や鎧を質に入れて葬儀代金をひねり出したらなんてことが、そんなことが知れたら、間違いなく、この家は取り潰しになる」
「ああっ、八方塞がりだ。吾助、当てにはできぬが、直次郎はいまだに行方はつかめぬのか、なんとかいい案はないものか、」
 覚之助は頭を抱えて髷を乱した。お菊はじっとそのやりとりを聞いていた。
 美しかった姉の美雪は苦労したのか、げっそりとやせて頬骨が出て、美人の影もなくとげとげしい、兄の覚之助も険悪な表情で切羽詰まった表情を隠せなかった。
 兄は今でもお菊のことをへちゃむくれで不幸な女だと思っているらしく、お菊の身なりを見て、金の相談をしても相談するだけ無駄だという顔をしていた。
「母上、兄上、姉上、いろいろご心配かけましたけれど、お菊は今、幸せに暮らしています、父上にもそうご報告したくて参りました。おへちゃで汚なくとも、幸せは見栄えじゃない、幸せになれるかどうかは心持だって、母上がいつか言ってくれたとおりでした。産んでくれた母上にも感謝しています。」
「しあわせですって?その格好でですか?貧乏丸出しではないですか、武家出としての面子も、誇りも捨ててしまってですか、みっともない。そんな恰好で屋敷内をうろうろされては梶井家の恥です。まったく、お菊は小さいころから汚かったから、」
 姉の美雪は葬儀の工面ができぬ悔しさをお菊にぶつけるように言い放った。
「いいえ、お菊は今、私たち以上に幸せなのかもしれない、しがらみやら、地位やら、面子やら、容貌やら、お金やら、なんでもかんでも他人と比較しなくては生きていけない私たち武家の世界にいるよりも、そんな事とは無縁に暮らしている様子ですから、私たちよりよっぽど心が穏やかで、しあわせそうですわ、」
 母のお房は、お菊の言葉に思わず涙がこぼれそうになって、やっとそれを抑えた。自分たちがこだわっているつまらないことに縛られずに、お菊が強がりではなく、本当に幸せに暮らしているように思えたのだった。
 お菊は、腰に巻いた茶渋の滲みのついた風呂敷を広げて、
「差し出がましいでしょうが、ここに百両ございます。父の香典としてお持ちいたしました。よければこれをお使いください」
 と、母お房、兄の覚之助、姉の美雪の前に差し出した。
「お菊、そなた、その金子どうしたのだ?富くじでも当たったのか?」
 一同は驚いて顔を見合わせた。

「いいえ、貸し便屋で稼いだ金子でございますが、安心してください、銭に臭いは致しませんから、」
「お菊、そんな身なりで、この金を出してしまって、明日からどうやって暮らしていくのですか?」
「大丈夫です、長屋暮らしでは、金は天下の回りものでございます。それに、本所深川あたりでは”江戸っ子のなりそこない金をため”、なんて言われちゃいますから」

 水無月、蒸し暑い夜であった。
 涼を求めて、柳の下の川端で団扇を仰ぎながら夕涼みをする手合いも多かったが、
 ちょいと景気のいい者は、ちんちんちゃらちゃら三味三味線を鳴らし、大川に遊び船を繰り出し、料理をつまみ、酒を飲み、唄っていた。
 提灯の灯りが揺ら揺ら行き交う賑やかな大川の屋根船の間を、
『貸し便船、お菊の間』という幟を立てた、
平船が忙しそうに動いていた。
「ちょいと、はやくきてきて、漏れそうだよ!!」
「あいよっ、小便三文、肥やしの素の大便は只だよ、、さっぱりしなせえ!!」
 お菊とへの字、いそがしそうだねえ、、

  貸し便お菊  ​おわり、  朽木一空​
​​​





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最終更新日  2019年10月25日 10時58分05秒
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