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カテゴリ:浮説 徳川御用金、伊賀の蜜謀
浮説 伊賀の蜜謀消えた徳川御用金 4 ![]() 徳川御用金の行方 伊賀の頭目、黒破多呂兵衛は罷免になった駿河台にある小栗忠順の屋敷に忍び込んだ。急がねばならぬ、蜜謀に猶予はならぬ。 小栗忠順は勝手方の勘定奉行(会計責任者)であり江戸城の金蔵のどこに御用金が保管してあるのかを知っている男なのだ。 月光の光だけが差す人気のない屋敷の庭から黒破多呂兵衛は小栗忠順に囁くように小声で話しかけた。 ~小栗殿、拙者たち伊賀の者は長州薩摩の官軍の軍門には下りませぬ。奥羽列藩を味方につけ、体勢を立て直せば、十分勝ち目はありまする、微力ながら、伊賀の者、甲賀の者、それに弾左衛門配下の者も、さらにフランスも味方にすれば、勝機は徳川にありでございます。 そのためには徳川御用金は不可欠でございます。もともと御用金は徳川再興のために使われるもの、決して、薩摩長州などに渡してはなりませね~ 黒破多呂兵衛が徳川を護るというよりも御用金に関心があることは小栗忠順は見抜いてはいたが、江戸城警護の役目を長い間務めてきた伊賀の衆の力があれば御用金を運び出すこともできると踏んで、小栗忠順は黒破多呂兵衛の誘いに乗ったのだった。 ~御用金さえ確保しておけば次の手が打てる、、~ 小栗忠順は優秀な官吏であった。出来る男であり、信じるところは頑として譲らない有能な男であった。 万延元年には、日米修好通商条約批准書交換のため、遣米使節団が米軍艦ポーハタン号に乗って史上初めてアメリカに渡った遣米使節団のひとりであり、アメリカ高官からも高く評価を得ていた人物で、世界を一周をして帰国してから、外国奉行につき、フランスの協力を得て、横須賀に製鉄所を造り、その後勘定奉行になった人間である。 その小栗忠順が御用金を持ち出すと決めた腹の底には小栗なりの計算が合ったのだ。小栗忠順は、300万両以上もある徳川御用金を無事に運び出すには小栗の家臣では頼りなかったのだ。 ~ところで、多呂兵衛、江戸城下に御用金を安心して一時保管できる、空いている大名屋敷はないか、駿河台のこの屋敷では、すぐに官軍に目をつけられて、接収されてしまうだろう。密かに隠しておける場所へ暫くの間、御用金を小栗家の荷物と一緒に預けたいのだが、名案はあるか?~ ~小栗殿、お任せあれ、既に江戸の大名は浮足立って、帰郷をした藩もありそれでなくとも、江戸脱出の準備をすすめておりまする。 すでに、大名の下屋敷ともなればもぬけの殻でございます。本所津軽越中の守の下屋敷ならば安全かと、すでに下調べをしてございます。伊賀の衆を屋敷の護衛につけますのでご安心を~ 翌日から、小栗の家臣と、伊賀の衆が連携し、江戸城の御用金が夜陰に紛れ運び出された。 白川門の隣にある不浄門とも呼ばれている帯曲輪門(糞尿や死体罪人を運び出すための門で、普段は人気がない)の船着き場には、黒破多呂兵衛が江戸城御用下掃除人の葛西の権四郎から借り、伊賀の者が手拭いで頬被りして船頭に扮した汚穢舟(おわいふね、糞尿運搬船)が待機していた。 江戸城から出る糞尿を運ぶ汚穢舟に、まさか千両箱が詰まれていようとは誰も疑うことはないだろう。 千両箱を積んだ汚穢舟は江戸城の壕を廻って、大川に出、両国橋の手前、堅川を折れ、堀に面して、船着き場のある、津軽越中の守の下屋敷まで、誰にも怪しまれることなく、運び込まれた。 ~伊賀忍鴉組の頭目黒破多呂兵衛がご小栗様御家臣とともに、徳川御用金をお護りいたします。~ 御用金が運び込まれると、黒破多呂兵衛は小栗忠順に報告した。 一方、小栗忠順は、翌日には、上州上野国権田村への土着願書を提出し権田村へ向かった。 家族と十数名の家来、それに、大砲6門の他、小銃21挺、機械類、洋書、それに徳川御用金の一部の千両箱10箱一万両を荷車と、長持に詰めて担ぐ人足数二十人が中山道を、板橋から、鴻巣、熊谷、高崎と辿っていった。 行列が小栗上野介忠順とわかると街道脇の者は冷ややかに噂をした。 「勘定奉行だった小栗上野介様の行列だ、あの荷車や長持の中には小判がぎっしり詰まっているに違いない、はて、まだ官軍と戦うつもりの御用金か?それとも、猫糞して、手前の腹を肥やすための持ち逃げか、、」 そういう噂は広がるのが早い、さらにその噂には尾ひれがついて、行列には十万両、いや百万両の小判を運んでいるんだというという噂までが拡がっていた。 だが、小栗忠順の行列には人足に紛れて、黒破多呂兵配下の伊賀忍鴉組の者がしっかりと警備をしていた。鴻巣過ぎたところで、十人前後のならず者が行列の荷を改めると言ってちょっかいを出したが、伊賀の衆にあっけなく赤子の手をひねるように潰されて 退散した。 行列は上州上野国の山深い権田村に無事に到着したのだった。 つづく 朽木一空
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最終更新日
2021年12月17日 10時30分06秒
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