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カテゴリ:小説 桃色頭巾参上!
桃色頭巾参上! 5 第五話 四谷伊賀組同心屋敷 錆び付かず 忍行の修行 四谷伊賀 徳川のため 今動くとき 北町奉行所、隠密同心の本多康十郎が人目を避けるように夕暮れ時に訪ねたのは、 四谷北伊賀町稲荷横丁にある「伊賀実戦武道塾」という道場であった。 道場の入り口には 「他流試合勝手次第。飛道具その他矢玉にても苦しからず」 と、勇ましい文句の書かれた板看板を掲げていたが、 塀は傾き、庭は草がぼうぼう、屋根にもぺんぺん草が伸び放題、 いまにも朽ちそう、狸の栖か、お化け屋敷に間違われるそうな道場は 赤貧洗うがごとしのありさまで、道場破りが来るとも思えない。 だが、道場からは、すさまじい撃剣の音と たあああ~、やあああ~ という、獣のような怒号に似た掛け声が漏れ、 伊賀町稲荷横丁を震わせていた。 門弟は数百人を下らず、伊賀者だけではなく、 大名家や旗本家の武芸に熱心な侍も集っていた。 この道場主は恐るべき武芸の達人なのであった。 武芸、柔術、忍術、水術、馬術、弓術、棒術など、 「武芸百般」に通じている強者であり、 江戸中の剣豪で道場主の岩窟武太郎に勝てた剣術使いはいないといわれていたのだ。 岩窟武太郎は30俵2人扶持の微禄の伊賀組同心の軽輩であるのだが 剣術道場を構えている偏屈で変人な剣豪であった。 その道場の門の前に本多康十郎は立ち尽くしたのである。 「たのもう、岩窟武太郎殿、おいでになられましょうや」 道場内に一歩足を踏み入れると、長刀・木刀・長竹刀・槍など数十本に始まり、 大砲・抱え筒・鉄砲・鉄棒・薙刀などの武具、具足柩、木箱が乱雑に詰め込まれていた。 まるで戦地の陣地の有様であった。 頭を総髪にし、頑丈そうな肉体に襤褸を纏って、傲岸不遜、眼光炯々な男が 北町奉行所、隠密同心の本多康十郎を一瞥すると、 「拙者が岩窟武太郎と申すものだが、その方は何方かな?いかなるご用件でまいったのじゃ、」 「拙者、北町奉行隠密同心、本多康十郎と申すものにござりまする。 使いの者に持たせた、信書に目を通されえていただきましたであろうか、」 「うむ、そなたが本多康十郎どのであっか、書状は謀(たばかり)状ではなかったのだな、」 「御意にござる、、」 岩窟武太郎は本多康十郎を奥の間の破れ畳の上に招き対座た。 茶のかわりに茶碗になみなみと酒を注いで、 その酒で口を濡らしながら、こそこそと密かな声で、 二時(四時間)もの間、密談を交わし始めた。
つづく 朽木一空 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年05月12日 10時30分07秒
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