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カテゴリ:極私的映画史
三木聡監督の2007年作「転々」を見て、最初に思ったのは「三浦友和は、いい俳優になったなあ」ということだった。僕らの世代の男にとっての三浦友和という俳優は、ある時期までは「山口百恵の相手役」であって、2人の結婚ですら「三浦友和でいいのか」と思うくらいの存在だった。それが見事なまでに「俳優・三浦友和」へと成長したのだから、改めて感心する。 山口百恵との結婚後、初めて「俳優・三浦友和」を意識したのは、相米慎二監督の1984年作「台風クラブ」だった。同作は台風のために学校に閉じ込められてしまった中学生たちの4日間を描いた作品だったが、三浦友和は女性問題を抱える中学教師を演じて、強い印象を残した。熱血教師でもなく、サラリーマン教師でもなく、人情教師でもダメ教師でもない。なんとも言い難いあいまいな教師像が、三浦友和という俳優の肉体を通して見事に体現されていた。 そう、三浦友和の真骨頂は、そうした「あいまいさ」にあるのだ。普通なら二枚目俳優の道を歩むであろう個性の持ち主でありながら、いつからか二枚目俳優の座を降り、クセのある役に挑戦し始めた。ところが、どんなにクセのある役を演じても、三浦友和のルックスはさわやかさを失わず、いわゆる演技派の演じるような人物像にはならない。どこかモヤモヤとしたあいまいさがあり、それが逆にリアルさを醸し出していた。 「転々」で演じた借金取りは、まさに三浦友和の「あいまいさ」の集大成のような演技だった。強面の顔を見せたかと思えば、時にはやさしさやおかしさを見せる。かといって、人情に甘えれば怖い一面を見せる。何を考えているのかわからないヘンな借金取りを飄々と演じる。ダメ男・オダギリジョーとのコンビネーションも素晴らしく、東京の散歩映画としても楽しめるほどに街の風景にも妙に溶け込む。三木聡監督の世界に溶け込みながらも、決して埋没することはない。しっかり「俳優・三浦友和」の爪痕を刻んでいた。 山口百恵の相手役に抜擢された「さわやかな二枚目」が、時を経て「あいまいな二枚目」という、ほかの誰にもまねできない俳優へと成長した。三浦友和は、もはや「山口百恵の相手役」などではない。「山口百恵に見る目があった」「山口百恵の内助の功」などと思うのは、山口百恵世代の勝手な妄想だろう。 転々 プレミアム・エディション [ 小泉今日子 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.02.24 16:19:59
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