3Dアニメの実験作
(C)ママーレード/シンエイ動画・メディアファクトリー・テレビ朝日・ADK 2009年末に公開された「アバター」で、3D映画は一気に盛り上がった。かつては赤と青のセロファンだったメガネもハイテク化され、よりナチュラルに立体映像が楽しめるようになった。この新しい技術の波は、当然、日本映画にも波及していく。「アバター」日本公開の直前に封切られた「戦慄迷宮 3D THE SHOCK LABYRINTH」はお化け屋敷とタイアップ。奥行きを3Dで表現し、闇の先に潜む恐怖世界を再現してみせた。エロ映画では「完全なる飼育 メイド、for you」は、ピンク映画初期のパートカラーを真似てパート3D(濡れ場だけ3D)という面倒くさいスタイルをとって見せた。 そんな3Dブームの中、突如登場したのが「劇場版3Dあたしンち 情熱のちょ~超能力♪母大暴走!」である。けらえいこの人気コミックを原作としたTVアニメが何を思ったか、3D化されてしまったのだ。「あたしンち」には派手なアクションもゾッとする恐怖もない。あの淡々として日常を3Dにする意味があるのか。「クレヨンしんちゃん」みたいに、母が東京中を走り回るアクションシーンが用意されているのか。そもそも「あたしンち」のキャラの立体化は、着ぐるみになったものを見ても、いまいちピンとこないではないか。 そんなクエスチョンマークだらけで映画は始まった。口があんぐりと開いてしまった。と同時に「この手があったか」と感心もした。映画に登場した母は、着ぐるみ状態ではなかった。完全2D! いわゆる紙人形劇なのだ。TVアニメと同じ2Dキャラが、立体空間の中で動く。「あたしンち」の世界を壊すことなく、3Dを強調するような派手な見せ場もなく、立体化されている。「3D、3D」と騒ぐ世間に挑戦状をたたきつけるかのような実験作。このまま、3Dシリーズ化されたら面白かったのだが、残念ながら「あたしンち」の3D化を面白がった人は、そんなに多くなかった。TVシリーズも終了し、今ではほとんどの人が忘れていると思うが、僕だけはしっかり記憶にとどめておきたいと思う。劇場版3D あたしンち 情熱のちょ〜超能力♪母大暴走! 【DVD】