出光興産のTVコマーシャルで、ウルトラマンが出てきて納豆菌云々というのをご覧になった記憶があありになるだろうか。
マニアの方には「ウルトラ出光人」といって、結構有名らしいが、たぶんほとんどの人は何のことかよく理解できないのではないだろうか。
そこで少し解説してみよう。
これは同社が開発した微生物農薬「ボトキラー」のことをいっているのである。
野菜の病気はほとんどが過湿によるカビ(糸状菌)が原因で、その中に「灰色カビ病」(Gray mold)という厄介な病気がある。
灰色カビ病は、ボトリチスシネレア(Botrytis cinerea) という糸状菌による病害で多くの植物がこの病害にかかる。
病徴は、茎、葉、花等が褐色に腐敗したのち、灰色のカビに覆われる。
発生適温は25℃前後で、湿度が高い場合に多く発生する。
余談だがこの菌は、貴腐ワインでも有名で、菌が葡萄の皮の蝋質を食べ、果実は水分を保てない状態になり、その状態で秋の暮れに太陽に照らされて果実の水分だけが蒸発して干しぶどうのような糖分が凝縮された実が出来る(貴腐現象という)が、その葡萄を原料としてあの有名な貴腐ワインは造られる。
この件に関してはファーマータナカのファーマーズ・バーで駄文を書いているのでぜひ読んでほしい。
さて通常は化学農薬で様々な防除を行うのだが、ボトキラーは、自然界から分離した納豆菌の仲間のバチルスズブチリス芽胞を有効成分とする微生物農薬で、その芽胞が作物表面に付着した後、栽培環境条件下、増殖・定着(増えて住み着く)し、病原菌よりも先に栄養源(餌)と生息の場所(棲み家)を占有し、持続的に病原菌の感染が抑制され病害の発生を予防するというしくみである。
ボトキラーに含まれるバチルスズブチルスの数は1グラム当たり1000億個(1×10の11乗)。
これだけの菌数だと、この菌自体の栄養源も作物からだとすると、納豆菌だから安全性はいいとして、作物自体にその害はないのだろうかと素朴な疑問をだいてしまうが・・・。
又、作物は次々と新葉を展開するので、継続的な散布が必要だ。
化学農薬の市場は、日本全体で3650億円規模と見られる。うち化学農薬が約3600億円を占める一方、微生物農薬の市場規模は約30億~40億円なのでわずか1%前後だ。
農林規格別表2の「天敵等生物農薬及び生物農薬製剤」に該当するので、微生物農薬の使用は有機農産物として認められる。
安全への関心の高まりなどから社会的には有益な取組に違いないが、石油化学事業が、石油と同じく頭打ちを続けるなか、付加価値の高い農薬事業への展開という企業の本質も見え隠れする。