山肌の緑のグラデーションが、少しずつ深みを増していく。
今年も棚田に水が張られた。
水無月の風は青く渡り、蛙の輪唱は一段と声高くなる。
田舎にいると、季節季節に、聞きなれない言葉がいくつか耳に入ってくる。
「さなぼり」もそのひとつだ。
部落の長老に、「どんな字を書いて、どんな意味なんですか?」と当初新規就農者の一人が質問したことがあったが、明確な答えは返ってこなかった。
土着の習わしとして、もう何百年(何千年?)と繰り返されてきた事実が歴然と存在するだけであり、それを何の疑いもなく、これからも綿綿と繰り返していくのだろう。
少し調べてみると、博多弁としてもあるようだし、さなぼり焼酎というものもある。
広辞苑によれば、「『さなぼり』は、『さなぶり』と同義で、『さ』は稲の意で田植えがすんだ祝い」と書いてある。
漢字は「早苗振」「早苗饗」などがあてられているるようだ。
「早苗振」は、水面に稲(早苗)を投げ入れるという意味からきていると言われ、「早苗饗」は、田植えが無事にすんだ喜びと豊作を祝ってのみんなが集まっての小宴という意味のようだ。
また、「さ」は田の神様のことで、田植えの前に田の神様が降りてきて、田植え後、再びお登りになる「さのぼり」が、「さなぶり」「さなぼり」になったという説もある。
ファーマータナカは米は作っていないので、関係ないと言ってしまえばそれまでだが、毎年参加して酒だけはしっかり飲んでいる。
今年は、青嵐に弱々しいながらも立ち向かう苗が、やがて漣み、頭を垂れるまでになるその生きとし生けるものの健気さと力強さに想いを馳せ、生半可な気持でなく酔いどれることにしよう。
(ファーマータナカの四方山コラム 2002/06/02)
(田植えを待ちわびる早苗)
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