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カテゴリ:羅刹
「為元の屋敷へ押し入った賊の首領は、隆範という僧侶だったとか」
「ふん、そんなことまで知っているのか。頼宗にでも聞いたかの」 頼通は冷たい目で能季をじろりと見たが、能季はその視線から逃れるように顔を背けてさりげなく話を続けた。 「でも、隆範は皇女を盗み出しただけで、本当に殺した下手人は道雅殿本人だと」 「恐ろしいことだが、そういうことだ。隆範が言うには、さすがに道雅は危険な夜襲には加わらなかったが、その間もずっと為元の屋敷の外で様子をうかがっていたそうだ。そして、手下の賊たちがまんまと皇女を盗み出すと、皇女を自分の懐(ふところ)に抱き込んで馬を駆り、小八条第へ戻ろうとした。だが、大宮大路へ出たところで、皇女は金切り声を上げながら道雅に食って掛かったのだという。何とか道雅の腕を逃れようと、必死に身を捩(よじ)って暴れるので、とうとう馬から落ちてしまった。その上、辺りをはばからぬ大声で助けを求めながら、神泉苑の方へ走り出した。骨が折れたらしい片足を引き摺りながらな。何としても自分から逃れようとする皇女に、道雅は心底怒り狂ったのだろう。道雅は恐ろしい形相で馬を下りると、皇女をそこら中追い回し、大宮川の岸辺でついに追いついたのだが」 頼通はふいに黙り込んでしまった。能季は焦れて訊ねた。 「それからどうしたのですか」 「その先の話は、隆範もなかなか口にしなかった」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年09月27日 14時44分34秒
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