アメリカの日本農業崩壊へのシナリオ
アメリカのトランプ政権の通商代表部の代表にロバート・ライトハイザー氏が指名された。この人は、レーガン政権時代に通商代表部次席代表を務めており、その時日本に鉄鋼輸出の自主規制を認めさせた。先日、アメリカ上院の指名公聴会に臨み、日本の農業は第一の標的になると発言した。日本との二国間交渉では、日本側にTPP以上の譲歩を引き出す自信があるという。日本はTPP交渉では米、牛肉、豚肉など重要五品目について、関税を段階的に引き下げるとしていた。しかしそれでは生ぬるいというのだ。米国第一のトランプ大統領の姿勢に沿って自由で公正な貿易を目指すという。日本は農産物の貿易に関して多くの障壁を残したままでいるのは理解できない。通商紛争には厳格な態度で臨むという。日本の農業部門のすべての品目での自由化が達成されるまで頑張るようだ。アメリカの穀物生産量は、 2006年において、約3億4,656万トンで、そのうち約8,300万トンを輸出しています。その最大の輸出先は日本で、輸出量は約2,090万トンである。これに対して日本政府はどう対応していくのか。安全保障面でアメリカに依存している以上、日本の立場を主張して交渉できるとは思えない。アメリカの意向に沿って農業の完全自由化を目指すことになるだろう。そのようなことになると、日本という国は独立国家としての基盤を失ってしまう。安い農産物が輸入されると、まずは競合する国内農産物が淘汰され、国内雇用が失われます。例えば国産米や国産牛が安価なアメリカ産米やアメリカ産牛との競合で駆逐され、コメ農家や畜産農家の多くが失業します。さらに、たとえば牛丼がより安価になれば、牛丼と競合する他の外食産業は人件費のカットで対抗するため、雇用を削減せざるをえなくなります。農家や食品関連産業で失業者が増えれば、労働市場全体が供給過剰になりますから、実質賃金が一段と下がってしまいます。国民の生活はどんどん苦しくなるでしょう。(TPP亡国論 中野剛志 集英社新書参照)食料の輸出国アメリカは、輸入するばかりの国に対して、大きな支配力を有することになります。軍事力でなくても、食料が相手国を支配する大きな道具となるのです。飢饉のときには生産国は輸入国の消費者がどんなに困る事になろうとも、まずは自国民のための供給を優先します。このようなことはもうすでに起こっています。1972年家畜の飼料原料の大豆カスが高騰しました。1973年6月ニクソン大統領は突然大豆の輸出を禁止しました。また食料不足で困っている国に輸出するとしても、法外な売値をふっかけることでしょう。アメリカの多国籍企業であるモンサント社、カーギル、エイティエムといった穀物メジャーが世界の食料を支配するようになるでしょう。日本でも野菜類の自給率は約8割と言われていますが、その種子は実はアメリカからの輸入に依存しております。アメリカのモンサント社は、 F1品種(2年目以降収量が激減する種子)の独占販売と日本農業の構造を戦略的に活用して、日本を支配する恐るべきパワーを手に入れようとしているのです。農業生産をめぐっては、多くの農産品輸出国は水資源の枯渇に直面しています。また穀物市場は、国際化されているがゆえに、一国の不作が世界全体の食料の価格高騰を招きます。さらに、アメリカはとうもろこしをバイオ燃料の原料として使うようになったために、とうもろこしの価格は、国際原油市場の価格にまで影響を及ぼすようになっているのです。不作になっても最大限の利益を出すのが目的ですから、価格を上げるだけのことです。農業の自由化、規制緩和は、日本での深刻な食糧不足を引き起こし、専業農家を廃業に追い込み、国民を不幸にする政策だと思います。政府がアメリカに譲歩するので打つ手がありません。我々の子孫の惨禍を招くことが分かっているのに、打つ手がないというのは残念なことです。