規制改革の原理(2)
私は留学時代、ドイツとスイスの国境地域で、郵便会社が定期バスを運行する「ポストバス」に乗って、オーストリアのインスブルックからスイスのオーバーエンガディン渓谷に旅した。始発から終点まで乗っていたのは、私一人だけ。それから3袋ぐらいの国際郵便か(笑)ポスト・バスは国境地域の幹線道路に点在する郵便局が停留所で、郵便局はみんな村落の中心にある。田舎のおじいちゃん、おばあちゃんが隣村の友達の家に遊びに行くために、このバスを使うみたいで。もう何十年も定時に郵便物を下ろしたり、載せたり、家族が郵便局前のバス停で送迎しているから、生活に密着しているのだろう。スイス・オーストリア国境は、いわゆる【チロル】という地域。昔、チロリアンという商品名の洋風煎餅のCMとかあったね。ロマンシュ語という古いラテン語の方言がのこる背が低い少数民族が暮らしている。運転手が郵便を運搬し、一人で荷受け・荷下ろしをしながら、乗客の運賃をうけとっている。みんな顔見知りという雰囲気だ。エンガディン渓谷は有名なスキー場、サンモリッツがある観光地。その先に、哲学者フリードリヒ・ニーチェが過ごしたジルス・マリア村がある。そこまでの道のりもポスト・バス。実に便利で、運賃もそんなに高くない。日本郵政がバス事業をやったら、民業を圧迫するという意見もあるだろうが。それなら宅急便も、地元バス会社と提携して、集配事業の融合化を進めたらいい。田舎のバス会社は解体するかもしれないが、収益効果はあがり、乗客数は上がり、交通の確保につれて、過疎人口にも歯止めがかかるはずだ。自治体も決断が必要だ。破綻寸前の路線バス会社に多額の補助金を提供するよりも、大胆に経営陣の刷新を要請し、日本郵政あるいは宅急便企業に提携要請して、運搬車の空きスペースを利用して、乗降客を乗せるサービスをしてもらって、定期交通路を確保すべきだと思う。だいたいの運行時間だけ決まっていればいいし、運搬車の正確な現在位置はGPSで把握できるはずだ。バスの現在位置の表示サービスは都バスも携帯サイトで提供している。郵便局やコンビニなら、運搬・乗降兼用車の現在位置をバス待ちの人々に知らせることはわけもないはず。宅急便や郵便の荷物も、追跡サービスがすでに完備している。しかし、ここで立ちはだかるのが、やっぱり利権。越後交通という企業は新潟県全域のバス交通網を持っているが。その創業者は田中角栄、その後継者は田中真紀子。国際興業という企業は埼玉県のみならず、関東全域にバス交通網をもっているが。その創業者は小佐野賢治、田中角栄の盟友で、ともにリクルート事件の汚職に関わり、国会で証人喚問の席に立ち、刑事被告人になり、有罪になった。西武もバス会社がある。九州は西鉄バス。「福岡市民はいない。博多っ子はいるが」と怒られたことがある福岡のタクシーの運転手さん。「ここは昔、西鉄バス専用の車線だったんだ」とまた憤懣をぶつけられた。西鉄の政治力は国道や県道まで占有していたのだ。このような企業が郵政や宅急便に、過疎地域の路線をやすやすと譲渡するだろうか。私はそろそろ譲渡するチャンスが来ていると思う。いまや田中角栄も、小佐野賢治も、堤康二郎もいない。どこかの地方自治体がバス会社の倒産と再生を引き受け、日本郵政と提携すれば、ポスト・バスは日本の道を走り始める。