FROM 　NEW 　YORK

I want to wake up in a city, that never sleeps

フランク・シナトラが歌う｢ニューヨーク・ニューヨーク｣の歌詞の一部だが、実はニューヨークも眠る。特に私の住むアップタウンの住宅街では夜、それも日曜の夜になるとひっそりと静まり返る。それはまるで明日から始まる忙しい一週間の為の生活との休戦と言ったところか。

向かいのビルの灯りも全て消えている。皆寝静まったこの時間が私は好きだ。自分と自分を取り巻く世界が隔離されているような、でも何処かで繋がっているようなそんな感覚に陥るのだ。

今朝は日曜にしては早く起きた。それはハーフ・マラソンのレースがあったからだ。眠い目を擦りながら着替え、ゼッケンをつける。完走出来るか心配だった。走り込みが出来ていない。恐いのだ。６月に肉離れを経験してから約１ヶ月半走れなかった。それから走る度、不安が過ぎるのだ。

レースは９時からのスタートだった。セントラル・パーク内を二周する。パークに着いた時には既に沢山の人が並んでいた。荷物をチェック・インして私は列の後方に並んだ。

｢自分のペースで走ればいい｣

そう言い聞かせていた。普段一緒に走る友達は参加しなかったので、久しぶりに一人で走った。一周目はなんとかペースを保って走る事が出来た。抜いたり、抜かされたりしながら様々な人達を見た。

グループで参加し、お揃いの黄色いTシャツを着たインド人達。一人は頭にターバンを巻き、“I’m proud to be a Shik” （シーク派であることを誇り！）と背中にメッセージを書いている。皆、同僚なのだろうか彼等の応援隊が一定の場所で声援を送っていた。

セントラル・パークを散歩している人達も声を掛けてくる。するとランナー達の足音が力強くなったように聞こえて来る。応援されるのは嬉しい。たとえそれがホームレスの怪しいオジサンの声であっても。

走りに余裕があるとセントラル・パークの景色が目の中に飛び込んでくる。少しずつ色づいて来ている。青々した緑一色の夏と違って、黄色や黄緑が緑に混じっている。キャンバスに描かれた油絵の中に自分が一瞬飛び込んだような気分になる。“Beautiful”という形容詞がピッタリの状況に、思わず

｢神様、ありがとう｣

そう感謝せずにいられなくなる。この混沌とした世界、ニューヨークという大都会の中、セントラル・パークというオアシスがある。人も街自体も癒されているのだ。

聞こえてくるのは、子供達の歓喜、風に揺られる木々の音、そしてランナーの足音。

たっ、たっ、たっ、・・・

レースに参加していないランナー達も増え始めている。レース用自転車に乗っている人、レンタル自転車に乗る観光客、ローラーブレードをしている人、散歩をしているカップル、犬の散歩をしている人、馬に乗っている人。本当に沢山の人がそれぞれの日曜の朝を過ごしている。そして私はその人達を横目に、ひたすら走っていた。

結局、レースは２時間半で完走した。膝の痛みを感じて歩いてしまったが、来月が本番、無理をしたくなかった。フル・マラソンは今回で最後にしようと思っている。だから今までで一番のタイムを出したいという気持ちから、頑張ってトレーニングしていた矢先の怪我。それから何かが狂ってしまった。体力も気力も。でも来年に延ばしたくはない。歩いてでもゴールする。そう思えばいいのだ。そう自分に言い聞かせる。

神様が安息日として第７日目を下さった。それはきっと自分と見つめあう為にあるのかもしれない。一日の終わり、深い眠りにある街を感じながら、日曜の夜は更けてゆく。