日常の出来事で、少し心が動いたことを、ちょっと作文してみようと思いました。つたないですが。
題名:出張の朝
「お父さん、出張いつまでなの。」
次男が聞いてきた。直接聞いてくることは珍しい。いつもなら妻に確認するのに。
「あさってまでだよ」準備をしながら答えた。
「お父さんと一緒にバス停まで行ってきたら?」
妻が言う。次男がうなずく。
今日の天気予報は雨だ。でも、朝はつかの間なのか、日が差している。
出かける時間だ。今回の出張はうまく行くだろうか。頭に漠然と浮かぶ。重い出張カバンを持ち上げた。
「行ってきます」と家族に声をかける。
そういえば、明日から長男は小6の修学旅行だ。本当は私が息子に「行ってらっしゃい」と言ってやりたかったところだが。
玄関で子供たちが「行ってらっしゃい」と口々に言いながら、靴を履いて出てきた。
廊下で妻の行ってらっしゃいの声が聞こえる。
出張に出かける時に、子供たちが、玄関の外まで見送りに出てくることは珍しい。
長男と次男がエレベーターに来て、一緒に乗った。
その後ろには末の娘も来ていた。
娘もバス停まで来るのか。バス停までは10分ほど歩かねばならない。
「乗るの」と聞いたら、ためらいがちだが、扉の敷居をまたいでエレベーターに乗った。
乗った後、見上げた顔は満面の笑みだった。
一昨日買ってもらったサンダルを履いている。きらきらひかっているサンダルだ。
今朝起きたときは不機嫌だったのに、今は朝日が横から当たり、きらきらした笑顔をしている。
1階で降りて玄関を出た。
長男が「修学旅行、楽しんで行ってくるね」と言う。
「うん、気をつけて行ってきてね」と答えた。
バスまで時間もないので、普通の速さでしばらく歩いた。
後ろを振り返る。
すぐそばに次男が付いてきていた。私に気づかれて、「見つかった」とばかりにニヤニヤしている。
しまった。娘は?ふと、心配になる。
後ろの曲がり角で長男が手をつないで二人で立っていた。
ああ、長男が付いていてくれたんだ。
その二人はこちらに大きく手を振って「行ってらっしゃーい」と言っている。
次男も「やっぱり帰るね。行ってらっしゃい。」手を振りながら、後ずさりする。
「行ってきまーす」後ろ向きに歩きながら手を振って答えた。
その後、前を向くと、私は、振り返らずにバス停に向けて歩き始めた。
もう、カバンの重さは気にならなかった。