'98~'99 UEFAチャンピオンズリーグ決勝 マンチェスター・U 2 - 1 バイエンルン・ミュンヘン
1999.5.26 スペイン・バルセロナ ~カンプ・ノウ~MANCHESTER UTD マンチェスター・U 2 - 1 バイエルン BAYERN( M ) = 90+1分 シェリンガム、 90+3分 スールシャール( B ) = 6分 バスラー カンプ・ノウ震撼の夜 悪魔復活の戴冠 ユナイテッド、バイエルン共にこの欧州最高峰の舞台のファイナルに登場したのはしばらくぶりである。バイエルンは12シーズン前、あの"マジック"マジェールを擁したポルトに痛恨の逆転負けを許して王座を逃した87年以来、そしてユナイテッドは実に68年以来、31シーズンぶりという長い時の流れを刻んでの決勝進出だった。ボビー・チャールトン、ジョージ・ベストの活躍した時代など、もはやクラシックであり、モノクロであり、申し訳ないがよほどの長きに渡るベテランサッカーフリークでない限りピンとこない。クウォーターファイナル、セミファイナルにおいてバイエルンがカイザースラウテルン、ディナモ・キエフという比較的イージーなチームを相手にしてきたのに対し(シェフチェンコがまだ在籍していたキエフはやっかいだったが)、ユナイテッドはインテル、ユベントスという長年苦手としてきたイタリア勢を打ち破ってのファイナル到達だった。ファーガソン監督が語っていたようにインテルを準々決勝で下したのは非常に自信になりチームに勢いをもたらすことになったようだ。そしてこれにより過去7シーズン続いたイタリア勢の決勝進出が途絶えたことで、イタリアの誇る名主審、コッリーナがこの世紀の一戦の笛を吹くことになったのである。 悪魔完全包囲 バイエルン4度目制覇へ自信のスタートを切る エッフェンベルク、イレェーミスの気合満々の表情はまだ緩んでもいなかった。ツイックラー、ヤンカーの2人でいきなりゴール前で得たFKのチャンス。6分、これを名手バスラーが右足でユナイテッドの壁右端をすり抜ける弾丸キックで沈めてみせる。この日でチームを離れるGKのシュマイケルは立ち尽くしたまま浴びてしまった失点に、怒りを隠さず顔面を紅潮させてチームメイトに激を飛ばしながら悔しがった。会心のゲームの入り方をしたバイエルンは、「最後のチャンス」と語りビッグイヤー獲得に執念を見せる38歳のマテウスをリベロに置き、クフォー、リンケの強靭CBにタフマンのイレェーミスが中盤で相手から自由を奪い、問題児エッフェンベルクにいつものように前線に絡ませる磐石の包囲網を敷いた。3-4-3ではあるがヤンカーのワントップ気味で、両サイドのバッベル、タルナトも状況に応じて最終ラインに駆け戻り守備に応戦する。2シーズン前にドルトムントを率いて欧州を制した名将ヒッツフェルトはファイナルの一発勝負にかけてはさすがにやり方を熟知していた。ユナイテッドにとってこの日はあろうことか非常事態だった。つまりスコールズ、ロイ・キーンというチームの2枚柱のMFの出場停止である。本来左のギグスを右へ移してブロムクビストに代わりを任せ、ベッカムをセンターで起用せざるを得なかった急造の赤い悪魔は、あまりにも立ち上がり機能しなかった。何にしても右に不慣れなギグスにボールは偏り気味で、そこにはハイプレッシャーで立ち向かうイレェーミスとタルナトと対峙しなければならなかったからである。自然とベッカムもそこにフォローに加わるため、中央に空いたスペースをバイエルンに突かれる形になり、バットがケアするものの、リードして勢い付くバイエルンにミスを誘われる悪循環でバランスを崩し続けた。コール、ヨークの2トップもダメダメだった。クフォーとリンケに完全に首ねっこを抑えられ、クロスに強いふたりもパスが来なければ何の脅威にもならない。ただ14分のG・ネビルのロングスローからのチャンスは決めておきたかったが・・・。打開を図ろうにもスタムがここぞというタイミングで上がってくるくらいで、何より左のブロムクビストは一体何をやっているのだ? とファーガソンの逆鱗に触れそうな状態だった。25分付近からようやくワイドに展開し落ち着きを見せ始めたユナイテッドだったが、バイエルンの強固な抵抗はこの日ばかりは常識を超えていた。マテウスの存在も光った。DFラインに吸収されたままではなく、タイミングよく前へ動き、29分にはロングドリブルからツイックラーのミドルを導き、31分にもフリーで一気に攻め上がりシュートも放った。マテウスのプレーは余計にキーン不在の痛手を相手に知らしめているようでさえあった。結局、ギグスの孤軍奮闘で何度かセットプレー(CKは6本)は奪ったユナイテッドだったが、前半終了間際のヨーク、コールの粘りからギグスが飛び込んだシーンもカーンに身体を張って止められ、「守られ」すぎた印象、そして「修正大あり」のファーストタイムを終えた。 ロスタイム恐るべし ユナイテッドCK2発ラッシュで頂点到達 バイエルンのディフェンスのリズムは後半、なおも持続していた。マテウスは後方から相変わらず見事にラインを統率して見せ、バスラーは自ら蹴ったCKからカウンターを食らいそうになる前にはもう自陣に舞い戻っていた。守備意識の高さとしつこいまでの集中力は、局面で勝負を仕掛ける右のギグスを苦しめ続けた。そしてルーズボール、セカンドチャンスをことごとくフイにする攻撃陣-。55分にはギグスが左に持ち替えて上げた渾身のクロスをブロムクビストが合わせたが枠を外し、61分にベッカムが右サイドに流れて放り込んだロングクロスは、バット、ブロムクビストが交錯してチャンスをブチ壊した。63分、ようやくベンチが遅まきながら動いた。ブロムクビストを下げてシェリンガムが入り、コールとの2トップへ。そしてギグスを左へ、ベッカムを右へと本来の形へとシフト。ヨークがやや下がり気味となった。それでもコール、ヨークとはタイプの異なるシェリンガムの途中投入はすぐには好転とはならない(だがこれが奇跡を起こすひとつ目の布石となる)。バイエルンは手を緩めず71分、ツイックラーに代えてショルを投入し、攻勢に転じ始めたユナイテッドにブレーキをかける。72分、ショル、エッフェンベルクでフィニッシュまで持ち込み、73分にはシェリンガムの凡ミスからカウンターに入りヤンカー→エッフェンベルクと繋いで見事なループを狙うも、シュマイケルが決死の大ジャンプで辛くも指先で逃げる。79分にはバスラーが右サイドを突破、ヨンセン、スタムをを寄せ付けずショルが左ポスト直撃のループショットを見せる。まさにバイエルンデーだった。ユナイテッドとの違いはシュートミスが少ないことと決定機を決めずともリードしている分、心理的余裕があることが大きかった。MFの4人+マテウスの非常にバランスのとれた連携は、そう易々と崩せるものではない。80分、そのマテウスがベッカムに受けたラフタックルで故障しフィンクと交代(これが後々響くことになろうとは誰も知らない)。81分、ユナイテッドもコールを下げてスールシャールを送り込んだ。2トップの顔ぶれが変わった。悪魔に血が巡り始めた。コール、ヨークがすべてであるかのようなマンUの最前線だが、タイプの異なるもうひとつの組み合わせをまだ残していた。バイエルンの勢いはその後も83分のショルのミドル、84分のヤンカーのオーバーヘッドと消えることはなかったが、ユナイテッドも87分もスールシャール、シェリンガムのコンビでカーンを急襲し、88分のギグスのクロスからスールシャールのヘッドと、分刻みで試合は変化を見せるが、バイエルンが優勝へ向かう可能性もグッと近付いて行く。89分にバスラーに代わりサリハミジッチが入った時点でロスタイムは3分。この試合のハイライトの7割はここからである。90分、ベッカム、ギグスが粘って左CKを奪う。シュマイケルもゴール前まで上がりスクランブルで同点を狙いに行く悪魔。冷静な心理状態を保つのはかくも難しいものか。ベッカムのキックのこぼれたボールをバイエルンは大きくクリアできなかった。ギグスが確実に右足で捉えたしかし弱いシュートを、シェリンガムがこれまた確実に右足で押し込みついににゴールをこじ開けた。土壇場でタイスコアー。ドラマチックな同点劇に沸くカンプ・ノウ。心底落胆するバイエルン。1分前までビッグイヤーがちらついていた現実からの転落と歓喜と失望とのあまりのギャップの大きさに傷口が大きく開いた。さらに悪魔の恐怖は続く。ロスタイム3分、クフォーから再びCKを奪い取ると、失点のショックから一瞬集中を欠いたバイエルンゴール前にシェリンガムがフリーでヘッドで飛び込み、スールシャールがゴール天井のネットに右足で突き刺した。無遠慮にナイフで刺したも同然だった。コッリーナ主審がタイムアップの笛を鳴らすまでほとんどなかった。あまりのすごさとむごさ。試合終了後、屍のように崩れるバイエルンの選手。クフォーなどは人目はばからず号泣し起き上がれなかった。地獄絵図とはこのことである。無論、表彰式は開始が遅れに遅れた。最後交代せずに残っていたら失点はあるいは防げたと言われたマテウスが、ヨハンソンUEFA会長にかけられた銀メダルを即座に外した光景は、ベッカムがカップを得意の絶頂でかかげた姿よりも、忘れようにも忘れられない。