ハリケーンといってもこれはボクシング・ミドル級チャンピオンルービン"ハリケーン"カーターの実話による冤罪のお話。まったくでっち上げの、凄まじいばかりの人種差別が裏にあって、2度の再審も却下、これを彼の自伝を読んで釈放運動に励む黒人とその扶養者カナダ人3人組が新証拠を発見、州裁判所の地区のグルによる不正を恐れて連邦に提訴する。
ノーマン・ジュイソン監督作品「
ザ・ハリケーン」('99)は、まさにジュイソンだからこそ見たのだが、そのルービン・カーターをデンゼル・ワシントンが好演。よく演じる好人物とは異なる役柄を、人相も変わるほどの姿で、終始注視していかざるを得ない。全体の描き方も後に弁護士となるレズラ・マーティンを中心にその扶養者カナダ人3人組が素朴で淡々としていて、いかにも捜査はアマチュアの感じが出ていて、どうなることやろという感じで、束になってこの不正を守ろうとするデラ・ペスカをはじめとする権力や差別派の強靭な巻き返しに対するにはいかにも心もとないのだが、最後の連邦裁判所のサロキン判事をやっているのがロッド・スタイガー、数々のキャリアを凝集したかのような、例によってまこと見事な貫禄、アクの強さで、眼を見張る。
このしんがりにロッド・スタイガーを持ってきたことで、映画は見事に締まる。確かに30年間の獄中生活の釈放という事実を描いただけといえば言えるし、冤罪を強固にもたらしたものたちの断罪も見られないから片手落ちではあるのだが、デンゼルとこのスタイガー、そして30年間の獄中人生、そこに眼を絞れば実に渋い映画である。
ボブ・ディランの"ハリケーン"が使われていて、当時のアメリカでは早くから冤罪の大きな事件であったようだ。陪審員制度の中で有罪が決定してしまうのだから差別主義者の根は深い。