ふたりのマダム・ジリー12『ルイーズ 1854年 結婚』
クレアお姉さまは、いつもよりずいぶんとおめかし。私もたっぷりひだのあるドレスを着せられています。この日のために、歌をずいぶん練習しました。グスタフ先生は一生懸命教えてくれたんですが、姉さまにはなかなか満足してもらえなかったのが残念。亡くなったお母さまはもとオペラ座のバレリーナ。お姉さまもオペラ座でバレエの指導をしています。兄弟は私とお姉さま以外は皆男の子。お父さま似で絵が得意。美術学校に行ったり、建築家の下で働いています。末っ子で女の子の私を、家族はとても可愛がってくれているしお兄様たちのお友達も仲良く遊んでくれるからとても幸せ。でも、私には歌の才能はあまりないみたいです。3才の時に歌とピアノの手ほどきを始めてもらったのに、5年たってもあまり上達しないから、音楽院への入学も見合わせた方がいいかもしれないってお父さまも。お姉さまは時どき「あの方には申し訳ないけれど。」ってため息をついています。「あの方」というのは、私が赤ちゃんのときに死にかけていたのを助けてくれた恩人でE・ジェラールさんといいます。ハーバリストといってどんな病気でも治してしまうお薬や、とっても綺麗になれる化粧水を作れる人。前はこのアパルトマンに住んでいたそうです。手先が器用でお父さまよりも絵が上手なうえに、歌は天に昇るほど素晴らしくて赤ん坊だった私はすぐ泣きやむほどだったんですって。そのせいか、ジェラールさんがアパルトマンから引っ越す時に置いていってくれた猿のオルゴール、この曲を歌ってくれていたそうなんですけれど、これを聴くと私、とってもうっとりするんです。歌は上手ではないけれど、美しい音楽は好きなので、気がつくと一日に何度も何度もこのオルゴールを聴いていて。ジェラールさんは私が生まれる前から、クレアお姉さまとずっとお付き合いがあって、音楽のレッスン費用も全部出して下さっているのです。居間にある素敵なピアノもジェラールさんの贈り物。どうして私がお母さまやお姉さまのようにバレエじゃなくて、歌を習っているかという理由はジェラールさんのご希望だからなんです。ついでに言うと、お兄様たちの学費もジェラールさんが助けてくださっていてお父さまはとっても感謝しています。ジェラールさん、今はバイエルン公爵のもとにいらっしゃるのです。そう、ご成婚になるエリザベート様のお父さまのお城。オーストリアに嫁がれる前のエリザベート様にピアノや歌をお教えになったりお肌を綺麗にするための薬草を処方して差し上げているんですって。皇帝の花嫁になるのも大変かもしれません。皇帝ご夫妻の結婚披露に、どうして私たちがお呼ばれしたのかしらって聞いてみると「あの方のおかげよ。」とお姉さま。(お姉さまがあの方っていうと、とっても遠い目をするの。)美しいものがたくさん集まる皇帝陛下の結婚式を、芸術家であるお姉さまと芸術家を目指している(はずの)私に見せるために、公爵に頼んでくださったのだそうです。おめかしして馬車に乗っているのはそのためで、お姉さまと私とグスタフ先生はいったんバイエルンのお城に向かっているところです。お城に行ったら、ジェラールさんに、お会いできるかしら?私、猿のオルゴールのことで質問したいことがあって。オルゴールを抱えていて気づいた秘密、お姉さまにも言っていないのです。(いつも聴いている曲は「仮面舞踏会」という題名。歌詞もグスタフ先生から教えていただきました。)それは猿の帽子のすぐ下をギュっと押すと、オルゴールの曲が変わること。はじめは壊れたのかと思って、それで誰にも言わなかったんです。聴いていると、心臓がどきどきして体が熱くなってくるこの曲の題名が知りたくて。もし歌詞があるとしたら、この曲なら歌ってみたい。どうぞ私に歌えるものでありますように。“To be,or not to be: that is the Phantom.”・・・NO.12『ふたりのマダム・ジリー 結婚』***「ふしぎ発見」では、ジョセフ・ブーケの綱元そのままのような、大道具を動かすためのロープが、今も保存されていると。オペラ座ではロープは火事を現し、使ってはいけない言葉だそう。船上で火事があると、水桶をひっくり返すためのロープをひっぱるため、火事=ロープを連想させるからだとか。言霊は、かの国にもさきはっているのですね。ロープはハンギングも意味しますし、船上での仕置きはロープを使ったものだったと思われ、船乗りが多かったというオペラ座のスタッフさんたちが火事のみならず、不吉なことを連想させる言葉を嫌うのもわかります。ましてや、ファントムの息遣いをいつも感じている場所とあらば、投げ縄の得意な彼の餌食にはなりたくないでしょうから。映画でも、ファントムがロープに細工したあとは、災いが起っていますね。シャンデリアが彼の細工ひとつで落ちたあと、火災さえ起っているのはなんとも不思議な符合。ジョエル監督は、このジンクスを知っていたのでしょうか。原作では、ファントムがオペラ座建築に関わっていたとされています。彼が地下で身を横たえていたベッドは棺桶。いかにファントムといえども、地下水路をロープひとつでひっくり返す細工は仕込んでいなかったでしょうから、彼にとってのオペラ座は、エジプトのファラオにとってのピラミッドのごとく、最期を迎えるための巨大な墳墓だったのかもしれません。☆ガストン・ルルー 「オペラ座の怪人」生きながら棺桶と墳墓を行き来していたファントム。クリスティーヌという華に出会った時、始めは自分の棲む闇に誘いこもうとしたこと、ラウルの出現より後は、自分も彼女の求める光のもとに行くからと懇願したことが、(しかもやさしき言葉を知らなかった彼は、愛する者に憎い恋がたきとほとんど同じ言葉で語ることしかできない。)彼の境遇を考えると、切々と迫るのです。Say you’ll share with me One love, one lifetime Lead me, save me from my solitude Say you want(need) me With you here Beside you Anywhere you go Let me go too Christine that’s all I ask of…Past The Point Of No Return Andrew Lloyd Webber 1986( )はラウル☆「オペラ座の怪人」のジェラルド・ファントムに魅せられた方は、やはりぜひ「ドラキュリア」もご覧くださいませ。何故に彼のもとに、ファントムという役がやってきたのかが解ります。 ☆通常版・送料無料☆ ☆初回限定版・20%OFF☆