カテゴリ:健康
80歳台のがん治療 長尾和宏 2015年9月 6日 アピタル(朝日新聞医療サイト)
がんは老化現象であるとも言われています。 老化に伴い、遺伝子のミスコピーも増えるからです。 実際、高齢者のがんに関する相談も増えています。 この場合の高齢者とは、80歳代のことです。 65歳では高齢者とは言えません。 75歳でも高齢者と言えない元気な人が沢山います。 今日の話は、80歳ないし85歳以上の方の話だと思ってください。 何か自覚症状が出て病院で検査したら、進行がんが見つかったというケース。 本人とご家族が悩んだ果てに相談に来られることが時々あります。 私は、迷うこともあるし、ある程度ハッキリ申し上げる場合もあります。 年齢以上に、元気かどうか、要介護者かどうか、が第一のチェックポイント。 次に、がんができた臓器と進行度(ステージ)が、第二のチェックポイント。 そして、本人の生き方や、希望や、哲学が、第三のチェックポイントです。 これらを総合して、本人と家族の顔色をソッと伺いならら助言をはじめます。 ステージ4の膵臓がんや食道がんだったら、何もしないことを勧めるでしょう。 しかしステージ4の前立腺がんや乳がんだったら治療を勧めるかもしれません。ホルモン治療のことです。 またステージ4の大腸がんでも腸閉塞が懸念されるなら、手術を勧めるでしょう。 そもそも80歳台といえば、余命も限られています。男性なら既に平均寿命が超えています。 女性でも平均寿命から逆算したら、余命は5年です。平均寿命から言っても、5年生存率は、かなり低い。 80歳台のがん治療はなんのためにあるのでしょうか?もちろん与えられた余命を楽しく笑って全うするためです。 だから さきほど、ステージ4の前立腺がんのことを書きましたが、もし1カ月毎日、放射線治療に通院せよとの命令が下っていたら、とても迷います。 がん治療には必ず、なんらかの「犠牲」が伴います。もし入院したら、その間だけでも貴重な人生最期の時間を奪われます。 もし抗がん剤で食べられない時間があれば、その間、「食べる」喜びを失います。そしてたとえ放射線治療であっても、通院の手間を想像すると躊躇します。 実際には、ステージ1や2のがんも見つかります。たとえば、早期胃がんや早期大腸がんです。 内視鏡で完治可能であると判断される場合でも、とっても悩みます。たった数日間の入院で認知症が出たり、寝たきりになる可能性があるからです。 もし治療をしなくても少なくとも3年くらいは生きられると思われるならば「もういいじゃないかな」という判断をする場合もあります。 しかし病院の専門医が、強く「治療」を勧めた場合に、とても困ります。その専門医の顔を潰しては申し訳ないからです。 でも、目の前の本人の尊厳も損ねては本末転倒です。とっても迷って、その日に結論が出ない時もあります。 あるいは、「やらないほうがいいな」と思った時は、診察室に常備してある近藤誠医師が書かれた「がん放置療法のすすめ」をお貸しすることもあります。 参考文献) 「長尾先生、近藤誠理論のどこが間違っているのですか?」(ブックマン社) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.09.12 11:34:47
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