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中国船“横暴”実態ルポ ベトナム・南シナ海で「貪る赤い帝国」の脅威 2015.10.28 産経デジタル
習近平国家主席率いる中国による、南シナ海での暴力的な覇権拡大に、国際社会から怒りの声が噴出している。 国際法を無視して、スプラトリー(中国名・南沙)諸島や、パラセル(同・西沙)諸島の一部を実効支配し、人工島建設や油田開発を強行しているのだ。エスカレートする漁民への妨害行為。 米海軍は「航行の自由」を守るため、東南アジアの関係国に艦艇派遣を伝達した。 緊迫の海域で今、何が起きているのか。「貪(むさぼ)る赤い帝国」の脅威に直面するベトナム・南シナ海を緊急取材した。 (報道部記者・安里洋輔) 10月初旬、首都ハノイから南に約880キロ離れた中部クアンガイ省を訪れた。同省・サーキ港から高速艇に乗って1時間でリソン島に降り立った。10平方キロの小さな島に住む住民の多くが漁業を生業としている。 彼らが先祖代々受け継いできた漁場が、スプラトリー諸島やパラセル諸島の周辺海域だ。 タイやサワラ、カツオが獲れる“豊穣(ほうじょう)の海”であると同時に、中国が一方的に人工島を建設して「自国の領土、領海だ」と、実効支配を強めている海域である。漁民らは長年にわたり、国際法を無視する中国側の暴挙に悩まされながら、命懸けの操業を続けてきた。 「漁の最中に中国船の妨害を受けて拉致された。連行された島で鉄柵のついた刑務所のような場所に監禁された」 15歳から海に出ているグエン・チ・タイン(31)は2009年、パラセル諸島周辺で操業中に、中国船に拿捕(だほ)された。連れて行かれたのは同諸島最大のウッディー島(中国名・永興島)だった。 ウッディー島には十数軒の住居があり、多数の中国軍関係者の姿が目に入ったという。 中国側の発表によると、2・1平方キロの島内には1000人以上の中国人が居住。2・7キロの滑走路を設置するなど軍事要塞化が進んでいる。 グエンは2カ月にわたって拘束され、過酷な拷問も受けた。 「取調官が、足の甲に木製の棒を乗せて踏みつける。脇腹を何度も殴られて、『家族に電話して身代金を払うように言え』と強要された」 身代金の要求額は7~8万元(現在のレートで132万~151万円)。年収の3~4倍に相当する額だ。支払いに応じなかったが、父親から受け継いだ船は没収された。こうした海賊まがいの行為は2000年代初めから繰り返されているという。 「最近では、身代金を求めることはなくなったが、船で体当たりしたり、獲った魚を奪ったり…。中国人はより暴力的になっている」 中国は現在、南シナ海のほぼ全域を囲む9つの線からなる「九段線」(赤い舌)を勝手に引き、南シナ海の大部分を「自国領海だ」と強弁している。スプラトリー、パラセル両諸島の複数の岩礁を埋め立てて、軍事基地化を進めている。 昨年5月には、パラセル諸島付近でベトナムの海上警察の船と中国船が衝突し、越中両国の緊張が高まった。この事件以降、中国船によるベトナム漁船への妨害行為は一層激化したという。 グエンは「ホアンサ(パラセル)諸島は3年ほど前から危なくなっているが、昨年からは、これまで静かだったチュオンサ(スプラトリー)諸島周辺でも、妨害がひどくなってきた」と、惨状を明かした。 「漁師仲間の中には銃で撃たれて命を落としたり、体当たりを受けた船もろとも海に沈められた者もいる。人の命を何とも思っていない。ヤツらは本当にひどい」 漁師歴33年のズオン・ミン・タイン(61)は怒気をあらわにこう語る。 ズオンは、記者の取材を受けた1週間前(9月下旬)にも、パラセル諸島周辺海域で中国船6隻による妨害を受けた。ズオンの船は全長21メートル、幅5・8メートルだが、妨害してきた中国船は2倍以上の大きさで、銃器を装備していた。多くは中国海警局(海上保安庁に相当)の公船だった。 「ヤツらの船は鋼鉄製で、こっちは木造船。衝突すればひとたまりもない。数に物を言わせて威圧し、船体をぶつけてきた。曳光弾を撃ち込まれたこともある。漁に出るたびに恐ろしい思いをしているよ」(ズオン) 中国船が漁船に横付けし、乗り込んできた中国人乗組員が、漁に使うGPS受信機などを破壊することもある。 リソン島の中心部には、3人の男の立像が建てられている。「『雄兵黄沙(フン・ビン・ホアン・サ)』の像だ」。「黄沙」はベトナムでパラセルを指す。案内してくれた島民が教えてくれた。 島では16世紀から19世紀まで、勇敢な島民を年に1回、自らの王朝の領土・領海であることを示すため、パラセル諸島に派遣していた。約300年間続いた「雄兵黄沙」と呼ばれるこの任務で、生還したのはわずかに1回。命懸けで、辺境の島を守ってきた伝統があるのだ。 他の地域の漁師たちの中には、中国船の妨害を恐れて漁場に近づかなくなった者もいる。だが、リソン島の海の男たちはこう口をそろえる。 「俺たちは何があっても行く。受け継がれてきた伝統を失うわけにいかない」 =敬称略 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.10.30 23:41:57
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