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ネットにあふれる怨嗟の声 中国と習近平の「悪循環」が止まらない 経済失政、戸籍差別、権力闘争…2016年、何が起きてもおかしくない 2015-12-28 現代ビジネス
「新常態を認識し、適応し、導いて行かねばならない」 習近平主席は、今年の締めくくりである中央経済工作会議を、12月18日から21日まで、北京西郊の人民解放軍総参謀部が経営する「要塞ホテル」京西賓館で開いた。参加者は、党中央委員会メンバーら約400人の面々だ。 習近平主席は直前に散髪したらしく、さっぱりした様子だったが、笑顔もないままに、今年もう何十回目か知れない重要演説をぶった。 「中国経済は全体としては平穏に運行しており、平穏な中に進展があり、平穏な中に好転がある。中国経済は中高速成長を保持しており、経済システムは改善されている。改革開放は縦横に深く邁進しており、民生の改善は持続し、社会の大局は総じて安定的なのだ。 今年の主要目標は達成したし、(2011年~2015年の)第12次5ヵ年計画は勝利を収め、わが国をさらに高い発展段階に押し上げたのだ。 新常態を認識し、新常態に適応し、新常態を導いて行かねばならない。それこそが、今後一定期間のわが国の経済発展の大枠のロジックなのだ。 来年の戦術上のキーポイントは、生産過剰を改善し、在庫を一掃し、レバレッジをやめ、コストを落とし、律速段階を補う。これが5大任務だ。 具体的には、第一に積極的に生産過剰を改善していく。それには企業合併を増やし、破産企業を最小限にとどめる形で収めていくのだ。 第二に、企業のコストカットだ。仲介サービスを整理し、企業の税負担を抑え、「五険一金」を簡素化し、電力価格を抑え、流通システムの改革を進めるのだ。 第三に、不動産の在庫一掃だ。これには都市戸籍を増やして都市化を進め、一刻も早く農民工(出稼ぎ労働者)を都市市民にするのだ。戸籍制度改革を進め、農村から都市部に出てきた人々の就業と居住問題を解決してやるのだ。 第四に、効率的な供給を拡大することだ。貧困を撲滅し、先端技術を発展させ、農民の収入を安定させるのだ。 第五に、金融リスクの解決だ。政府債務の管理をうまく処理し、不法な投資が蔓延するのを防止するのだ。 その他、積極的に外資を利用し、一帯一路建設の好機を掴むのだ。中国の特色ある社会主義政治経済学の重要な原則を堅持し、社会主義市場経済の改革の方向を堅持するのだ」 おそらく参加者たちは、「そんなの分かってるよ」とため息をつきながら、中国中央テレビのカメラを意識しつつ、両手を膝に当てたり、メモを取るフリをしながら聞いていたのではなかろうか 製造業は生産過剰状態に陥っているが… 習近平主席は表だってはキレイゴトしか言わないが、実際には中国の製造業は、とんでもないことになっている。例えば鉱業業界の「微信」(WeChat)プラットフォームである「鉱業界」は10月に、業界の惨状を暴露した。その要旨は、以下の通りだ。 ---------- <石炭> ・石炭業界は約1万3000社あり、就業者数は約400万人で、全エネルギーの65%をまかなっている。だが9割の企業は赤字で、約100万人が失業の危機に陥っている。 ・6月に、内蒙古自治区の半数の石炭鉱山が生産停止となり、10万人以上が失業した。全国の9割以上の石炭会社が赤字経営と化した。山西省の上半期の石炭業界の損失は40億元を超え、在庫は年初比35%増の4700万トンになった。内蒙古自治区の上半期の石炭出荷量は22%減に、出荷額は3割減になった。 ・7月に、湖南省は125ヵ所の石炭鉱山を閉鎖した。内蒙古自治区の霍煤集団が破綻。石炭価格の暴落が止まらず、全国20省の石炭業界の給料は3割カットとなった。 ・9月に、内蒙古自治区の石炭業界はいよいよ破綻ラッシュとなり、破綻を逃れた大企業も給与半額カットとなった。 ・10月に陝西省が18ヵ所の炭鉱閉鎖を発表した。全国の年産30万トン以下の鉱山はことごとく消えた。第3四半期までの電力使用量は4兆1344億kWで、前年同期比0.8%増は過去最低。 ---------- <鉄鋼> ・海外産の鉄鋼コストは1トンあたり50ドルを切るのに、中国産は90ドルに上る。すでに全社赤字状態に陥っている。今後2年以内に、中国国内の4分の1の鉄鉱山が閉鎖される見込み。中国鉄鋼工業協会加盟社全体で3兆元(約60兆円)の負債を抱えている。非加盟の約2割の企業を含めれば、さらに多い。今年第3四半期までの粗鉄生産量は2.1%減、鉄鋼価格は18.8%減、利益総額は97.5%減。 ・3月に、山東省臨三斤地区の製鉄所が閉鎖され、6万人近くが失業した。 ・4月に、攀鋼集団成都製鉄所が57年の歴史を閉じ、1万6000人が失業した。 ・上半期の上場鉄鋼会社55社中、赤字を計上した26社の純損失額は106億9,100万元に上った。 ・9月に、山西省最大の民営製鉄会社の海鑫製鉄が破綻した。湖北省は年末までに544もの高炉を閉鎖すると発表した。 ・10月に、杭州鉄鋼が年末で生産停止を発表した。 ---------- <銅> ・全国の銅山企業900社(就業者14万人以上)中、過半数が赤字。中国最大の江西銅山は、10月から7万トンの減産。 ---------- <セメント> ・第1四半期に華北、東北、西北地域で、前年比6億元増の44億元以上の損失を計上。うち最大の河北省は25億元以上の損失。第1四半期のセメント価格は前年同期比で46.52%に下降し、10年前の水準に。 ・今年第3四半期までのセメント産出量は17億2337万トンで4.7%減。北京市、上海市はそれぞれ24.22%減と34.38%減。 ---------- <ガラス> ・全国の第1四半期の平板ガラス生産企業の損失率は約4割になり、業界の平均利益は前年同期比で26.6%減少。 ・10月に、中国最大の民営ガラス生産企業である江蘇省張家港の華爾潤が生産停止になり、8000人以上が失業した。 ---------- このように、製造業は大幅な生産過剰状態に陥っているのだ。そのため、生産規模を減らさざるを得ない。そうすると大量の失業者が出るし、政府や地方自治体の税収も減る。つまりは負の連鎖に陥っていく。 1990年代後半にも、朱鎔基首相が主導して大胆な国有企業改革を行った際に、大量の失業者が街に溢れ出たことがあった。だが朱鎔基改革は、一時的に構造調整で「出血する」けれども、その後は以前よりスリムになった国有企業がV字回復するし、かつ国有企業が住宅供給を停止するため誰もがマンションを買えるようになる、という「明るい未来」を見据えた改革だった。 それに較べて今回の習近平改革は、まったく五里霧中の航行である。 中国の「袖の下」文化は健在 現在、地方経済の崩壊によって、大量の失業者が都市部に出てきている。だが北京も上海もすでにパンク状態で、周知のようにPM2.5地獄に喘いでいる。 習近平主席は戸籍制度改革を唱えているが、これには二つの側面がある。一つは都市戸籍と農村戸籍の「人種差別」を撤廃することで、もう一つは一人っ子政策を廃止して、来たる少子高齢化時代に備えることである。 だが、「人種差別」を廃止したら、農村はますます荒廃し、都市部はますますパンク状態に陥るのが見えている。また、一人っ子政策は2年前の「3中全会」で廃止を謳ったが、それでもこの不況と最悪の環境下で、二人目を産もうとする夫婦は少ない。 私の北京の若い友人夫婦は、2016年春に出産予定だが、通院中の産婦人科から、「子供を産んでも北京戸籍は取れない」と宣告されて、強いショックを受けている。 夫妻とも地方出身者だが、夫人が「優秀留学帰国者特別枠」で数年前に北京戸籍を取得しており、生まれてくる子供は、当然ながら北京戸籍取得の権利がある。だがいまや北京市政府は人口を一人でも減らしたくて仕方ないため、容易に戸籍を支給しないというわけだ。そうなると、戸籍を取得しようと思えば、多額の「袖の下」が必要になってくる。 もう一人、北京でこの年末に念願のレストランを開店させた友人の例を挙げよう。彼は不況で潰れたあるレストランの権利を買い取ったのだが、厨房が狭かったので少し広げることにした。そうしたらそこに、北京市の商務局、消防局、環境保護局、衛生局などが目をつけ、これらの役所の許可証を取るのに、計60万元(約1,200万円)もの賄賂を払わされたというのだ。 彼はこうぼやいた。 「習近平主席は3年前に、『トラ(幹部)もハエ(小役人)も同時に叩く』と宣言し、徹底した腐敗撲滅運動を始めたが、実際に叩いたのはトラだけだった。むしろ小バエは、以前よりも激しくタカってくるようになった。何たって役人たちも生活貧窮の折、生きるのに必死だからね」 習近平総書記の「腐敗撲滅運動」とは 前回の第3回中央都市工作会議は、建国の父・毛沢東主席の死後2年経って権力を掌握したトウ小平が、新たな都市作りをブチ上げた会議だった。そしてその会議から2年後の1980年にトウ小平が始めたのが、経済特区第1号の深圳の開発だった。 香港に隣接した人口3万人の漁村に「第2の香港」を建設するとトウ小平がブチ上げた時、誰も信じるものはいなかった。ところがトウ小平は深圳を、「第2の香港」どころか、郊外まで含めれば香港の2倍もの人口を擁する巨大都市に作り上げたのだった。 今回、習近平主席は、1978年のトウ小平のような心境になったに違いない。だからこそ、37年ぶりに第4回中央都市工作会議を開催したのだ。だがその当日に、深圳で前代未聞の大事故が発生してしまったのである。 この事故の一報が北京の京西賓館に伝えられた時、400人の幹部の中で一番蒼くなったのは、胡春華・広東省党委書記(省トップ)ではなかったか。胡春華党委書記はすぐさま会議を離れる許可を取って、広東省にスッ飛んで帰ったはずだ。 2012年11月に第18回中国共産党大会が開かれて、習近平副主席が党中央委員会総書記(党トップ)に就任した。それから現在までの3年余り、習近平総書記が唱える腐敗撲滅運動によって、多くの幹部が失脚したことは日本でも伝えられている。それは実際は、腐敗撲滅運動という名を借りた習近平の権力闘争である。 だが習近平の権力闘争の中で、実は最も重要だがまったく伝えられていないものがある。それは、「習近平vs胡春華」の闘争である。 2012年に引退した胡錦濤前総書記は、2007年に「弟分」の李克強を自分の後継者にできず、習近平に全権委譲せざるを得なかったことが、痛恨の極みだった。そこで、「ポスト習近平」には、自分の実の息子のような存在の胡春華が就けるよう、中国31地方で最大のGDPを誇る広東省を胡春華に与えて引退したのだった。 習近平は、晴れて総書記に就任した翌月、最初の視察地に広東省を選んだ。それはその翌週に広東省党委書記として赴任する予定だった胡春華を牽制しておきたかったからだ。その時から、習近平vs胡春華の権力闘争が始まった。 深圳の事故は誰による「人災」なのか 端的に言えば、2017年秋の第19回共産党大会で、習近平総書記は胡春華広東省党委書記を、党中央政治局常務委員(トップ7)に引き上げたくない。引き上げればその5年後に胡春華が党総書記に就くからだ。かつ習近平時代の後半5年は、いつレイムダックになるか知れない。 そして、胡春華を常務委員に引き上げないためには、胡春華に「失点」を与える必要がある。 今回、習近平は、12月21日に中央都市工作会議が終了するまで丸一日間、報道管制を敷いて、深圳の大事故について報道させないようにした。その上で中国官製メディアは、33棟が崩壊し、死傷者、行方不明者合わせて93人に上る「人災」が発生したと、センセーショナルに報じたのである。 「人災」とは、誰による災害か? 個々には地元企業とか地元の小役人とかだろうが、広東省全体の責任者と言えば、胡春華党委書記である。「北京で重要な中央都市工作会議を開いている最中に、広東省はいったい何をやっているのだ!」と叱責されることは、胡春華にとって、大きな「失点」となる。 2017年秋の第19回共産党大会まで2年を切った。ここから習近平vs胡春華の権力闘争は本格化していく。 2016年の中国では何が起こってもおかしくない――。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.01.01 09:43:08
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