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中国軍強硬派、尖閣実効支配の意図、日本は国際発信重視
北京=倉重奈苗 武田肇 2016年8月17日 朝日新聞 中国が、沖縄県の尖閣諸島周辺への公船派遣を常態化させようとしている。海洋権益を確保する習近平指導部の決意があるためで、南シナ海でも実効支配を強める中国に対し、日本政府は国際社会も巻き込んで抗議している。その一方で、日中両政府とも相手の出方を見ながら対話の可能性も探っている。 14日、尖閣の領海の外側にある接続水域内で、赤い中国国旗を掲げた中国海警局の公船4隻が航行を続けた。「日本の領海に近づかないように」。海上保安庁の巡視船が、無線と電光表示板で警告した。 接続水域内に15隻がひしめいたピーク時に比べると数は減ったが、公船が接続水域内に入るのは12日連続。また領海侵入を試みる可能性は高いと、同庁は警戒を解いていない。 中国が東シナ海の尖閣沖に公船を一挙に派遣してきたのは、習近平指導部のもとで海洋権益の確保を絶対に放棄しないという決意があるためだ。 中国では、習氏が中国共産党総書記に就任した2012年11月の第18回党大会で「海洋権益保護の堅持」が最重要の国家戦略として掲げられた。東シナ海に加え、中国は南シナ海でも、ベトナムやフィリピンが領有権を主張する海域に公船を相次いで送り込んできた。南沙(スプラトリー)諸島では、七つの岩礁を埋め立て、滑走路など軍事転用もできる施設をつくっているのは、こうした大方針があるためといえる。 習氏は対外的に「(中国は)平和を愛し、平和的な発展の道を歩む」と繰り返す。その一方で、「国の核心的利益を犠牲にすることはない」とも強調する。 13年には、漁業行政や国境警備、税関など縦割りだった海上法執行機関を中国海警局に統合。公安省の指導も受けて、取り締まりや権益保護活動を行うなど権限を強めてきた。今回の事態は、最高指導者の政務を支える党中央弁公庁が関わっているとの情報もある。 今回、尖閣周辺に現れた公船の一部は機関砲のようなものを装備。中国が急ピッチで建造を進める新型船を投入したのも、実効支配を強める意図を裏付ける。 軍内部の強硬論も影響しているとみられる。昨年末、軍改革の議論のさなかで強硬派とされる軍関係者の間で一つのメモが出回った。そこには軍改革で新設された5戦区のうち、東シナ海と台湾を管轄する「東部戦区」の任務に「釣魚島(尖閣の中国名)問題の解決」と記されていた。軍関係者は「領有権の争いがあることを示す段階は終わった。次は尖閣の実効支配だ」と指摘する。 今回、中国は9月初旬にホストを務める主要20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、尖閣周辺に公船を集結させた。日本の再三の抗議にかかわらず、退去しない強気の姿勢も見せた。中国はこれまで14年の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)前にはベトナム沖での石油掘削をやめるなど、重要な外交日程の前後には融和姿勢を見せる傾向がある。 中国政府内では、日本が直接当事者ではない南シナ海問題で対中批判を続けることに強い不満がある。「東シナ海と南シナ海で同時に腕力を振るうことで、中国は日本に知らしめる」。共産党機関紙・人民日報(電子版)が8日、こう題して「中国には自国の権益を取り返す力がある」と主張した。南シナ海で対中批判が集まるなか、この時期に中国が強気を貫いたのも、国内向けに力を見せつけたとの見方は強い。 ただ中国は現時点で、尖閣周辺での強硬姿勢とは裏腹に、表だった日本批判は抑えている。中国としては、長期的には海洋権益を強化するための歩を進めつつ、短期的にはG20前にさらに緊張を高めて参加国から非難を浴びるのは避けたい事情もある。当面は終戦の日の15日の閣僚らの靖国神社参拝などを見極めながら、日本との対話に応じるかを判断するとみられる。(北京=倉重奈苗) ■日本「対話のドアはオープン」 尖閣諸島周辺で中国公船の動きが活発化しているのに対し、安倍政権は、現場では海上保安庁の巡視船の態勢を強化し、外交ではひたすら抗議する姿勢を取ってきた。自衛隊の艦船に警察的な活動を取らせる「海上警備行動」の発令も現行法で可能だが、衝突の危機を高めるとして現実的な選択肢と考えていない。 それゆえ、安倍政権は、対外発信を通じた「国際包囲網作り」を重視する。 「(現在尖閣諸島周辺には)南シナ海のスカボロー礁周辺に通常展開している中国公船(4~5隻)に比しても、はるかに多くの公船が展開している」 岸田文雄外相が程永華(チョンヨンホワ)駐日大使に抗議した9日、外務省と海上保安庁はホームページに領海侵入したすべての中国公船の写真を掲載して説明文を加えた。 念頭にあるのは、中国が大規模な埋め立てや軍事拠点化を進める南シナ海問題だ。スカボロー礁は2012年、中国監視船とフィリピン巡視船がにらみ合った末、中国が実効支配し、フィリピン漁船が近づけなくなった。中国による力の挑戦を受けている二つの海を結びつけ、国際社会に訴える狙いがある。 岸田外相は11日には南シナ海問題の当事国であるフィリピンを訪問。ヤサイ外相から記者会見で「両国は東シナ海と南シナ海で同じ経験を持つ。領有権を主張するための力による行動は国際法上容認されない」との発言を引き出した。APなど欧米メディアも異例の発言として報じた。 ただ、政府は中国に対して「対話のドアは、常にオープン」(安倍晋三首相)との方針は変えていない。対中経済関係の大きさに加え、対話が切れると、偶発的な衝突が高まるという危機感がある。 安倍政権は9月初旬の中国・杭州でのG20の際に予定される習主席との1年5カ月ぶりの首脳会談を重視する。この場で偶発的な衝突を避ける「海空連絡メカニズム」の構築などを再確認したい思いがある。 日本政府高官は「このまま尖閣での中国公船の活動が沈静化し、終戦記念日の閣僚らの靖国神社参拝が中国の許容する範囲に収まれば、対話の希望をつなげられる」と話す。 中国が懸念していた稲田朋美防衛相の8月15日の靖国神社参拝は、外遊に出ることで見送った。終戦記念日の後、もともと8月下旬に東京で予定されていた日中韓外相会談を再調整するなど、対話に動き出す可能性はある。(武田肇) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.08.18 13:33:02
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