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金正恩、ひと月3人ペースで処刑、「パラノイア」「ヒトラー」傾倒の指摘も 2017-5-11 デイリー新潮 ■元北朝鮮一等書記官が明かした「金正恩」クレイジー逸話集(下)
4月22日、北朝鮮の元外交官で暗殺指令も出されている韓国・国家安保戦略研究院の高英煥(コヨンファン)・副院長が、初めて日本での講演を行った。テーマは「金正恩の恐怖政治とその展望」。序盤で明かしたのは、玄永哲(ヒョンヨンチョル)・人民武力部長を四身高射砲で“処分”するという、「お坊ちゃま」の狂気を示してあまりあるエピソードだった。
高氏によれば、こうした正恩の性向は後継者になった直後から出ていたという。 「世襲が決まった2009年、国家安全保衛部の事業を掌握した正恩は、まず対南工作機関の統一戦線部を徹底調査しました。そして7名が不正に関与しているとして銃殺したのです。正恩は歴史上初めて、党の大幹部を他の者の前で座らせたまま銃殺した。これが恐怖政治の始まりです」
11年に父・正日が亡くなった後、この傾向はますます加速していく。
「13年に叔父である張成沢(チャンソンテク)が玄永哲と同様の手法で粛清されました。人民は2、3日仕事が手に付かなくなるほどの驚きようだったそうです。また、李竜河(リリョンハ)、張秀吉(チャンスギル)の2人の側近幹部も相次いで処刑されています」
もちろん金日成、正日の時代でも粛清はあったが、市民から中堅幹部まで。まして親族などはありえず、せいぜい収容所送りだった。しかし正恩は何でもありだ。 トップの座についてから昨年末までの5年間で、彼が処刑した次官以上の人数は140名に上るという。1年30人とすれば、ひと月3人。この渦中にいる幹部の心中については、言葉を補う必要はあるまい。
この異常な指導者の下で、各地でさまざまな災いが現れ出ているという。 ■口臭がひどいから… 高氏はこんな逸話を披露した。 「独裁者は力を誇示するために大規模なものを好む。正恩も例外でなく、ウォーターパークやイルカショー施設、スキー場を各地に相次いで作った。しかしそのような大規模な開発があると住民は迷惑します。ウォーターパークに電気を回すため、周辺でこれまで1日4時間使用できた電気が1時間に減ってしまった」 平壌に高級マンションが建った時のこと。正恩が視察に来た際、電気不足でエレベーターが動かなかった。正恩が指示を出し、電気を手配させた結果、マンションは夜でも明るく、周辺は真っ暗になったという。
「平壌で大学を見学した際には、いきなり“半年後までに寄宿舎とマンションを1800世帯建てろ!”と随行者に命令を出しました。このような命令は突然出され、しかも予算も何も付かないため、同伴者はいつも怯えているそうです」
金正恩は、自分が出した計画が遂行されているか、自らの目でチェックする習慣があるという。根深い猜疑心の現れだろう。
「東部の江南道に、父の正日が作らせたトウモロコシ畑がありました。見学した際、正恩は何が気にいらなかったのか、トウモロコシを刈り、牛を放牧せよと指示を出した。しかしそこは非常に寒い地域で、牛を飼うには小屋が必要ですが、小屋に通すエネルギーもないのです。結局、視察の際は温暖な地域から牛を連れてきて“計画は順調です”と嘘を吐くしかなかった」
また、13年、正恩は南北国境に近い長在島を視察した。そこにいた軍人の首は細く、寄宿舎も粗末なまま。それを見て“これで南を解放できるのか!”と激怒し、改善を指示したという。
「軍は党や政府に働きかけて立派な寄宿舎を建てました。そして、育ちの良い屈強な兵士をわざわざ集めて視察を要請した。それを見た正恩は“だから人民軍が好きなんだ”と喜んだ」
所詮すべてがハリボテの国家というワケだ。
現在、韓国当局を驚かせているのは、軍総政治局長といった大幹部ですら、正恩に報告をする際、跪いて口を手で覆いながら話していることだという。 「正恩が“年寄りと仕事をしていると、口臭がひどい”と言ったからだそうです」 もはや国家の体をなしていないというべきであろう。
■パラノイアとヒトラー こうした彼の性向を生んだのは、一体何か。
講演で高氏は言及しなかったものの、専門家がこれを補うと、 「独裁体制でナンバー2がいない。合議制もないので、強権的手法にならざるを得ない」(デイリーNKジャパン・高英起編集長)
「祖父や父と違い、突然トップになった男。統治に自信が持てない。党内基盤が脆弱なので恐怖を味わわせ、権威を見せつけるしかない」(龍谷大・李相哲教授) といった組織構造的な分析がある一方で、 「パラノイア(偏執狂)といってよいでしょう。背景には、在日のしかも愛人の子というコンプレックスがあると思います」(コリア国際研究所・朴斗鎮所長)
「就任1年目の誕生日の際、贈り物へのお礼として、幹部に『わが闘争』を1冊ずつ配っている。つまり、ヒトラーに傾倒した、危険思想の持ち主なのです」(関西大学・李英和教授) など、そもそもの人格破綻を突く声もある。 いずれにせよ、彼をトップに頂いて5年余り。北朝鮮が危機の度合いを増していることは確か。
高英煥氏の話に戻ると、 「人民の金日成への忠誠度を100とすれば、正日は、60~70、正恩は20~30に過ぎないと見られています」
そのため、党には、面従腹背が横行しているという。 「殺されるのを恐れ、意見を何も言わない。机の上には『党がさせることだけをしろ』という心得が貼ってあるそうです。一方で、陰では正恩のことを『元帥』と呼ばず、『アイツ』とか『あの若造』と呼んでいる。見つかって咎められれば“いやいや、あの課長のことですよ”と誤魔化しています。海外にいる幹部などは、仕事を終えるとネットカフェに駆けこむそうです。で、私の名前などを検索し、先に逃げた人がどのような暮らしをしているのか調べている。ある脱北者は私の朝鮮日報のコラムまで読んでいたくらいで驚きました」
他方、一般の人民は、 「配給制度はもはや崩壊し、チャンマダンという闇市に依存して生活している。ですからドルや元の獲得に必死になっています。韓流ドラマも秘かなブーム。みな中国へ出張に行った際などに徹夜で見ているため、脱北者は私より韓国ドラマに詳しかったりするのです」
したがって、高氏はこう結論付けた。 「核やミサイルを放棄しない限り、国際社会の制裁は続く。国内では上から体制転換の動きが起きるかもしれないし、下からの圧力は高まっている。あの体制に先の見通しがないことだけは、はっきりしています」
それが“いつ”なのか――。北の人民が自らの手で自らの“首”をすげかえることを祈るばかりである。 願わくば、今すぐにでも。
「週刊新潮」2017年5月4・11日ゴールデンウイーク特大号 掲載 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.05.14 00:00:08
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