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2018.02.13
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カテゴリ:知識

100年前の日本人が「全員結婚」できた理由

 「恋愛結婚」が9割の現代は離婚率も増加

2018-1-2  荒川 和久(独身研究家) 東洋経済オンライン

 日本はかつて、皆が結婚する皆婚社会でした。

 

発光体というものは、太陽の下ではその存在すら誰も気付きません。光は闇の中でこそ輝きを放つものです。自由もまた同様で、不自由でなければ自由を感じられないものです。私たちは制約があると不満やストレスを感じますが、それがあるからこそ自由の獲得への欲求が高まります。逆に言えば、自由にさせられると不満もストレスもない分、自由のために行動するという意欲そのものを失うのです。

 

結婚にも同じことが言えます。結婚が自由化されると結婚意欲を減退させ、未婚化を推進してしまうのではないか。今回はそんなお話をします。

 

結婚の自由化が未婚化を推進している?

 

未婚化の原因は決してひとつではなく、さまざまな要因が複層的に影響しあって起きています。が、巷(ちまた)で言われているような「未婚化は若い男の草食化」などではないということだけは断言できます。その論拠については、こちらの記事「『草食系男子の増加』という大いなる勘違い」でもご紹介しましたが、改めて男性の交際相手がいた比率の推移をご覧ください。

 

少なくともここ30年間、男の交際率は変わっておらず、時代によって交際率が変化したなんてことは統計上はまったく言えませんむしろ、自発的に恋愛ができる男の割合なんてものはいつも3割にも満たず、7割強の男には交際相手はいなかったんです。最近の若者が「恋愛離れ」しているのではなく、バブル時代に青春を過ごした今50代以上の男性も、肉食系のイメージで見られがちですが、例外ではありません。

 

「それはおかしい。かつてはみんな結婚できていたんだから」というご指摘もあるでしょう。確かにそのとおりです。ですが、だからといってかつての男が積極的だったという証明にはなりません。

 

日本はかつて、皆が結婚する皆婚社会でした。国勢調査が始まった1920(大正9)年からのデータを振り返ってみても一貫して生涯未婚率は1990年まで5%以下で推移しています。この驚異的な婚姻率が1875年(明治8年)にはまだ3340万人だった人口を、1967(昭和42)年頃には1億を突破させるほど急成長させた原動力でもありますしかし、それはいわば国家的な「結婚保護政策」のおかげだったことを認識したほうがいいと思います。

 

近代日本の婚姻制度を成立させたのは1898(明治31)年に公布された明治民法です。誤解されている方も多いですが、ここで定められた結婚のあり方というのは、それまでの日本人庶民の結婚観とは大きく異なります。時代劇や歴史小説などでは主に武家の話しか出てこないため、すべての日本人が武家様式の結婚生活をしていたと思われがちです。しかし、武家人口は江戸時代の戸籍資料によると、総人口に対してわずか78%のマイノリティです。

 

現在の私たちの祖先のほとんどが農民や町人であったわけで、日本人=武士という考え方は間違いです。当時の庶民たちの結婚は、夫婦別姓であり、ほとんどの夫婦が共働き(銘々稼ぎという)でした。何より、夫婦別財であり、夫といえども妻の財産である着物などを勝手に売ることはできなかったのです。

 

要するに、明治民法が制定されるまでの日本人庶民の結婚とは、限りなくお互いが精神的にも経済的にも自立したうえでのパートナー的な経済共同体という形に近かったわけです。別の見方をすれば自由でもあり、夫婦の関係は対等でした。

 

明治民法により妻の経済的自立と自由が奪われることに

 

それが、明治民法により、庶民の結婚も「家制度」「家父長制度」に取り込まれることになり、主に妻の経済的自立と自由が奪われることになります。夫は外で仕事、妻は家事と育児という夫婦役割分担制もここから「あるべき夫婦の規範」として確立していきます。

 

それにより、女性にとって結婚とは生きるための就職のような位置づけとなり、基本的に結婚をしないという選択肢はありませんでした。そこで大いに機能したのが「お見合い」という社会的なマッチングシステムなのです。実は、これこそが結婚保護政策の最たるものです。

 

お見合いとは、個人の恋愛感情より、家と家という2つの共同体を結びつけるための機能が優先されるものであって、ある面では個人の自由がないと言えます。しかし、むしろ個人最適の選択によらず、強制的な全体最適を目指したシステムだからこそ、皆婚が実現できたともいえます。特に、自分からアプローチできない男にとってこのお見合いシステムというのは神システムだったと言えるでしょう。

 

お見合い結婚と恋愛結婚の比率の推移をあらわしたグラフを見るとお見合いの衰退は顕著です。戦前戦後時期は、お見合い結婚は全体の7割を占めていましたが、今では5%程度しかありません。しかもこれは結婚相談所きっかけ(約2%)を含みますので、伝統的なお見合い結婚はたった3%程度しか存在しないことになります。そのかわり恋愛結婚が87.7%にまで伸長しています

 

恋愛結婚がお見合い結婚を上回る分岐となったのは1960年代後半でした。生涯未婚率が上昇し始めたのは1990年代以降です。それよりも30年以上も前に衰退したのであれば、お見合い結婚減は未婚化には無関係だと思いますか?そうではありません。

1965年に25歳だった適齢期の男性が、生涯未婚の判断基準となる50歳になった時が1990年です。つまり、お見合い結婚比率が恋愛結婚比率を下回った第1世代は、そのまま生涯未婚率上昇の第1世代となったと言えるのです。

 

職場婚の減少も未婚化に影響

 

もうひとつ忘れてはならないのが職場での出会いによる恋愛結婚です。これは分類上恋愛結婚とされていますが、当時の職場結婚もまた社会的マッチングシステムのひとつでしたお見合いよりも自由度はあったと思いますが、出会いのきっかけとしてお膳立てされていたということは事実です。しかし、この職場での恋愛は今やセクハラ問題と表裏一体。職場結婚は今後も減少していくでしょう。

 

お見合いと職場結婚とを合算して1960年代から現在に至る婚姻数の推移をみると、構成比は1960年代の7割から半分の31.9%にまで激減しています。当然全体婚姻数も減っていますので絶対数の減り幅は膨大です。

 

もっとも婚姻数が多かった1972年と直近の2015年とを比較すると、お見合いと職場結婚を合算した婚姻数のマイナス分は約46万組となり、婚姻総数のマイナス分とほぼ同等です。つまり婚姻数の減少はこれら2つのきっかけの減少分だったと言えるのです。

 

お見合い結婚から恋愛結婚へと移行したことで明らかに変化したことがもうひとつあります。それは離婚の増加です。

 

もともと江戸時代から明治の初期にかけては、日本は離婚大国でした当時、世界トップレベルの離婚の減少に寄与したのもまた明治民法です。この民法によって、家制度型の婚姻や家父長制度が世間に浸透しはじめ、その頃から日本の離婚率は急激に減少しました。

 

一時1938年には人口1000人あたりの離婚率0.63という世界でも最も離婚しない国になりました。それがグラフを見てわかるとおり、一転1960年代以降の恋愛結婚の比率の上昇カーブとリンクするように離婚率が上昇しています。

 

恋愛結婚の夫婦のほうが離婚しやすい

 

もちろん「恋愛結婚が増えると離婚が増える」という因果関係までは断定できませんが、お見合いで結婚した夫婦より恋愛結婚の夫婦のほうが離婚しやすいというのは興味深いデータです。

 

このように、明治民法を起点とした「結婚保護政策」は、結果として婚姻数や出生数の増加に加え、離婚の減少をも生みだしたと言っていいと思います。自己選択権のないお見合いや妻を家に縛り付ける家制度、家族のために粉骨砕身働くことが父親・男としての責務という社会規範など、個人レベルで考えるならば不自由な制約が多かったのかもしれませんが、こと結婚の促進に関しては奏功したと言えるでしょう。

 

「吾人は自由を欲して自由を得た。自由を得た結果、不自由を感じて困っている」とは夏目漱石の言葉です。現代、恋愛や結婚に対して社会的な制約は何もない自由であるにもかかわらず未婚化が進むのは、むしろ自由であるがゆえの不自由さを感じているからではないでしょうか。

 

ただ、だからといって国家による結婚保護政策に戻すことは非現実的です。皆婚時代を否定はしませんが、冷静に考えれば国民全員が結婚していた状態こそ異常だと考えます。非婚の選択も生涯無子の選択も尊重されるべきですし、一方で結婚したいけどできないという人たちのサポートも必要です。

 

とはいえ、恋愛強者は男女とも3割しかいません。かつてのお見合いや職場縁に代わる新しい出会いのお膳立ての仕組みが必須なのかもしれません。






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最終更新日  2018.02.13 00:00:17
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