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歌 と こころ と 心 の さんぽ

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2024.01.11
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カテゴリ:読書

♪ しみじみと孤を味わいて饒(ゆた)かなり独座大雄峰の富士山


 最近読んだ本。この2冊は私の感性に近く、心情的な価値観と問題意識にとても共感でき “そうだそうだ” と相槌を打ちながら楽しく読んだ。


*「時の余白に」読売新聞コラム(2006年4月~2011年9月)をまとめたもの。
*「悔いなく生きる」東京スポーツ紙連載エッセー(2008年~2019年)をまとめたもの。

「時の余白に」は読売新聞社の美術担当の記者っだった芥川喜好(きよし)さんの文章だけに、過不足ない手慣れた文章に引き込まれる。あまり表に出ない、地味ながら地に足を着けて自分に向き合って生きている美術家ばかりが登場する。
 それらの人々の、他人と比べず独自の生き方を貫いている姿が、私には同じ血の流れているものとして読んで素直に共感でき、とても心地よかった。

 版元の「みすず書房」の紹介文
「ジャーナリズムの言葉は、届かせること、そして理解を生むこと、つまりよき媒介者として機能することこそすべてである。媒介とは、ただ右から左へ接続することではなく、どう言い表わせば伝わるか、どう表現すれば他者は理解するかを、考え続けることである。つまり書き手であると同時に読み手でもあるような両義的な感覚が求められる。双方向への想像力である。」

*「有名になりたい欲」自分というものがない人間ほど他人に認められたがる。名ばかりで中身のない人間ほど自己顕示をしたがる。それが現代人の有名病だと。

*「太古の野生の森や草原に生きた脳を持って、私たちは今日、都市生活を営んでいる」
 森を研究し健康の増進と森の再生を目指している日本の生理学実験を国際会議で発表する人。

*今の日本の現状を「非社会性」を憂え、上昇志向をやめて自分たちの気質に合った緩やかな社会にしていかぬ限り、心の荒廃はつづく。中程度の国を目指して個人がもっと心理的に落ち着くことが肝要と訴える教授。

*「仰ぎ見る幹と枝、枝と葉、その織りなす複雑な空間にひかりが満ち風が起こり、こちらをすっぽり包んでくれる。動から自由な、別次元へ突き抜けていくような世界」をずっと描いてきた画家。

*「作るとは自分のなかから出てくるものを見極める事。だから独り。独自独歩の道しかない。そう定めていれば何も慌てることはありません。」と語る巨木の造形家。

*「高貴高齢」と自認して「ブリキの円空」と言わしめたプリミティーフな彫刻を作り、「ハプニング」を得意とする。「泡沫桀人列伝」を著した人。

 などなど、いかなる組織にも集団にも属さず、特定の立場や利害にかかわることなく、一人で思考を突き詰めていく人たち。どの人物も清々しいほど独りを貫いている。その人間のあるべき姿を活写してが奥が深い。
 叱咤され、勇気づけられ、私の軟弱なこころの中に清涼な水が流れるような、心地よい読後感に包まれていた。

「長年、美術の世界を取材して感じていたことですが、ものの中心付近というのは、分厚い保護膜に包まれてしばしば腐っていたりするものです。その点、周縁部は吹きさらしであり、風通しもいい。そこからものを眺めれば、見通しもいい。人の動きもよく見える」(あとがき)

「悔いなく生きる 男の流儀」
 男が悔いなく生きるためには、ある流儀が必要だ。それは人生のテーマを作ることであり、その思想、行動を恐れないことだ。そのテーマということについて、書いておきたい。(まえがきより)

 芥川賞受賞作家の高橋三千綱のエッセイ集で、バンカラな生きざまを述べ乍ら、政治家の実名前を出して忌憚なく書いているところに共感を覚える。
 自分の体験をもとにしながら、世の中を袈裟掛けにするような文章が心地い。しかし、文章は外連味のない中に、時おりパンチが打ち込まれる感じで、根底に人間愛があって読みやすく好感が持てた。

 私は彼のようなバンカラでも偉丈夫でもない。私がハツカネズミだとしたら、彼はヌートリアぐらいの差があるだろう。いやいやもっと大人物なのかもしれない。1948年1月5日生まれなので、ちょうど1歳年上だ。

 東京スポーツ新聞社在職中に小説を執筆し、1974年に「退屈しのぎ」で群像新人文学賞を受賞。退職後は文筆業に専念し、78年に「九月の空」で芥川賞を受賞。多作で知られ、青春小説、時代小説から、趣味のゴルフに関する著書、自身の闘病経験をつづった作品まで、幅広いジャンルで執筆活動を続けた。

 最期は肝硬変と食道がんで、2021年8月17日に亡くなっている。男の流儀で酒と競馬を愛し、女を傍らに据えてバンカラをやり通した、昭和世代の最後の無頼派作家なのかもしれない。

   

 こんな本まで書いていて、サービス精神と書くことへの執念がみてとれる。生きていることは書くことであり、人生全てが書くことと一体化していたような人だったようだ。





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最終更新日  2024.01.12 09:21:54
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題しました。
◆2014年10月23日から「一日一首」と改題しました。
◆2016年5月8日より「気まぐれ短歌」と改題しました。
◆2017年10月10日より つれずれにつづる「みそひともじ」と心のさんぽに改題しました。
◆2019年6月6日より 「歌とこころと心のさんぽ」に改題しました。
「ジグソーパズル」 自作短歌百選(2006年5月~2009年2月)

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