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カフェ・ヒラカワ店主軽薄

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2007.09.26
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カテゴリ:ヒラカワの日常
福田新内閣誕生から一日。
俺は六本木の国立新美術館へ。
朝日新聞社の三ツ木記者同行で、フェルメール展を見る。
フェルメールは一点だけ。
絵にはガラスがはめられ、三メートルほど離れた手すり越しに見る。
俺の場合は、眼鏡越し、プラスガラス越しということになり、
よく見えない。
よく見えないものを、見ようと眼鏡を拭く。

新聞にも書いたのだが、
俺は1996年のハーグ、マウリッツハイス王立美術館で行われた
『大フェルメール展』を半ば偶然に見ることができた。
その展覧会は、ヨーロッパ全体にちょっとした旋風を起こしており、
今後100年は同じような展覧会は開けないという
空前絶後のフェルメール展であるというふれこみであった。
フェルメールの絵は三十数点あり、世界中の美術館、収集家の手の内にある。
マウリッツハイスの展覧会では、実に三百年ぶりに二十三点を集めて
行われる歴史的なものになった。
当然前売りチケットは完売。

ちょうどその頃、俺は自分の翻訳会社の支店を
オランダのライデン市に作っている最中であった。
ライデン(現地ではレイデン)は、日本語を教えるライデン大学があり、
幕末長崎の医者であるシーボルトが日本研究をしていた大学である。
町はライン川が流れ、風車が回り、チューリップが咲くといった
童話のような景観で、俺も駐在の唐見くんもその美しさに嘆息したものである。
(しかし、縄のれん、赤提灯のないこの街には三日で飽きてしまった)

ビクターオランダのビルの中の一室が、格安で借りられることになった。
ロッテルダム港には、ヨーロッパ中の製品が集まり、
そこから世界へ運ばれる。
その、出口のところで、製品マニュアルや、シッピングリストの
翻訳を拾おうと計画したのである。
しかし、こちらの目論見は外れた。ここに来るまでにほとんどの作業は
終わっており、そのうえ、オランダの人々は日本人のように、
がつがつと働かず、夕暮れになるとみんな家路についてしまう。
翻訳作業なんてものは、残業につぐ残業といった按配でないと
商売にならない。この支店は一年で閉鎖することになった。

閑話休題。
どうせ、入れないかもしれないが、雰囲気だけでも味わおうということで
おれたちは美術館へ向かった。
美術館の前は公園になっており、老人たちが犬と朝の散歩をしていた。
一様に、毛足の短い茶の物静かな犬で、日本では見たことのない犬種である。
いいなぁと、俺ははじめて、この国を羨んだ。
記憶が曖昧なのだが、俺たちは少し並んで、
難なく当日売りのチケットを手に入れることができた。
いくつかの僥倖が重なったのかも知れない。
そして、世界で最も美しい美術館といわれる館内に入り、
ガラス越しではなく、目の前数センチのところまで、顔を寄せて
フェルメールの技法を堪能することができたのである。
考えて見れば、あれが理想の美術館であり、美術鑑賞の姿だった。

俺は、その時『真珠の首飾りの少女』の絵葉書を購入し、
額装して机の前にいまでも架けてある。
この青いターバンの少女に、俺は「こひしてしまった」のである。
今日は、その少女には出会えなかったが、
同じ空気の中にたたずむ『牛乳を注ぐ女』との再会であった。
一枚の絵に、
群がる観衆。(俺もその一人である)
何だか、彼女が気の毒になった。





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最終更新日  2007.09.26 16:57:47
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