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カテゴリ:洋書
「クレムリンの枢機卿(Cardinal of the Kremlin)」など、ニューヨークタイムズ紙ベストセラーを発表し続けるトム・クランシーの著作。 粗筋: 国際テロに対処する為、対テロ部隊「レインボー」が創設された。新部隊の長にジョン・クラークが任命される。 レインボーに次々と出動命令が発される。航空機のハイジャック事件。スイス銀行での人質事件。国際的トレーダーの誘拐事件。そしてスペインにある遊園地の占領事件。 レインボーは問題なくそれらの事件を対処した。 クラークは不審に思う。テロが多くなってきているとはいえ、4件も立て続けに発生するのはおかしい、と。 これらのテロはある組織がある目的の為計画したものだった。組織はレインボーの存在を知る。レインボーは危険だと判断した組織は、レインボー本部のあるイギリスに刺客を向ける……。 解説: お馴染みのジョン・クラークが登場する。「クレムリンの枢機卿(Cardinal of the Kremlin)」ではジャック・ライアンがメインで、クラークは脇役だったが、本作では逆だ。ライアンは単に「大統領」と呼ばれるだけで、名前さえ上げられなくなった。CIAアナリストだったライアンが米国大統領。本シリーズもしばらく読んでいない間にかなり変わったものである。 本作で登場する組織とは、地球の環境を守るには人類を全滅させるしかない、と信じる過激的な環境保護団体だった。シドニー・オリンピックで遅効性の生物兵器を散蒔き、死に至る疾病を世界中に蔓延させる、という計画を立てたのだ。 組織がテロ活動を行った理由は、テロによってオリンピックの警備を強化させる為だった。組織は警備会社も運営していたので、警備が強化されれば活動員を潜入させることができると読んだのだ。 感想は……。 信じられないほどアホなストーリー。 アホなストーリーも別に悪くないが、900ページにも及ぶ超大作にするほどのことか。こんなのがよく出版されたなと思う。 問題は山ほどある。 第一に、対テロ部隊レインボー。戦闘能力は抜群だが、自己の情報収集能力がまるでないから、受け身ばかり。相手が行動するまで全く動けない。そんなもんだから、クラークの妻が勤務する病院の襲撃という、組織が計画した罠にもまんまとはまってしまう。罠から切り抜けられたのは相手がレインボー以上に馬鹿だったからに過ぎない。 はっきり言って、病院が襲撃された時はびっくりした。レインボーが200ページあまりの間に未然に防ぐだろうとてっきり思ってばかりいたからだ。 情報収集能力がないものだから、敵が本部に潜入して情報収集活動をしたのに全く気付かないし、組織から裏切り者が出るまで人類全滅計画の内容を全く掴んでいなかった。米国や欧州の協力が得られている為、やろうと思えば様々な特権を行使できるというのに、である。レインボーが特権を行使するのは武器を調達する時だけ。規模の割にはやることが小さい。 情報収集能力は敵の環境保護団体の方がはるかに上なのである。 レインボーは単なる戦闘フェチ集団に過ぎず、こんな連中が国際テロと戦えるとは到底思えなかった。 第二に、敵となる過激派環境保護組織。なぜ全世界を全滅させるというアホな計画を立てたのか(作中でも007みたいだと揶揄されていた)。環境保護に消極的な大統領(ジャック・ライアン)を暗殺するといった程度の現実的な計画を立てていれば、成功していただろうに。あまりにも壮大な計画を立ててしまった為、FBIやレインボーに知らぬ間にか包囲され(FBIやレインボーは包囲していたという意識はなかったようだが)、結局たった一人の裏切り者によって全ての計画が駄目になってしまう。 情報収集能力はレインボーをはるかに上回るのに、作戦実行能力はまるでない。 生物兵器の散布をたった一人に任せてしまうのも馬鹿げている。なぜ複数の者に複数の方法で複数の場所で生物兵器を散布するように計画しなかったのか。とにかくやることが中途半端。こんな連中が人類全滅計画を実施できるとは思えなかったし、こんな連中を阻止するのに900ページも割かなければならないレインボーも情けなかった。 第三にストーリー運び。最初のハイジャックから遊園地のテロ事件解決まで380ページ。後は組織が人類抹殺計画を着々と進める場面と、レインボーがモタモタしている内に襲撃されて「どこのどいつの仕業だ」とのたまう場面が延々と続く。 裏切り者がレインボーの元に駆け込んで、レインボーが計画全体の阻止の為に動くのは800ページ目から。380ページ目から800ページ目までの400ページは殆ど何も起こらない。ま、病院襲撃が起こるんだが、あまりにもだれていて緊迫感がなかった。 オリンピックでの生物兵器の散布阻止も、読んでいて呆然とするほど簡単に終わってしまう(800ページ目から850ページ目。たった50ページ)。 最後の最後でレインボー部隊全体が組織殲滅の為に動き出すのだが、組織上層部自体に戦闘能力はないものだから、これも呆気ないほど終結してしまう(850ページ目から900ページ目。これもたった50ページ)。 戦闘能力はあるが情報収集能力はからきしない特殊部隊と、情報収集能力はあるか戦闘能力はからきしない過激的環境保護団体。 本作品は無能団体同士の死闘を描いていただけだった。 昔のペーパーバックアクション小説シリーズに、フェニックスフォースというのがあった。5人メンバーのチームが、テロ事件が発生した際に出動し、テロ組織の存在を掴み、敵が立てているより大きなテロ計画を暴いた上で殲滅する、という内容だ。 こちらは戦闘能力の他に情報収集能力もある為、人数は少ないものの敵を積極的に探し出し、効率的に始末できた。 フェニックスフォース・シリーズでは、敵対組織が必ず準軍事組織である為、小説の最後のバトルは毎巻壮絶だ。兵器は従来通りのもので、本作品のように敵の動きが丸見えになってしまうハイテク装備は使わない(フェニックスフォースが出版された時点ではそのような装備はなかったということもあるのだろうが)。その意味では、フェニックスフォース部隊員の方がレインボー部隊員よりよっぽども優秀である。また、フェニックスフォース・シリーズでは、本自体も短いので230ページ、長いのでも300ページほど。フェニックスフォースはそれだけで各任務を終えられるのだ。 フェニックスフォースが今回の事件を担当していたら、230ページで過激派環境保護団体の正体を暴き、始末していただろう。 先ほど述べたように、レインボーは単なる戦闘フェチ集団。 ペーパーバックヒーローに負けてどうする。 全ての環境保護運動家を単なる過激派としか描かないクランシーの姿勢も疑問である。 トム・クランシーは本作品で過激的な環境保護運動の危険性を訴えたかったのだろうが、逆効果だった。小説の中頃以降は、自分はどちらかというと組織に同情していたのだ。 組織が人類を全滅させるのではなく、反環境保護主義の大統領や国会を殲滅する、という計画だったら、レインボーではなく組織を応援していただろう。 最後は、組織を裏切ったろくでなしのロシア人(テロ活動の手続きをした人物)が何でもないように事を逃れるばかりか、金脈を掘り当てて大儲けするというオチ。 カタルシスもクソもない。 関連商品: お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.11.23 09:09:41
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