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星見当番の三角テント

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歌織@星見当番

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2010.09.05
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【パパ、火を奪われる。モランの襲来。そして移住計画】

第六部。まだ『パパ海』第一章の前半しか終わっておりません。
いつまで続くのでしょうか、はて―

黄昏時、パパはひとりぼっちで庭飾りのガラス玉※に見入ります。
(※作中では「青い水晶玉」と訳されていますが、目の高さほどの石柱の上に
金魚鉢ほどの大きさのガラス玉が乗っかったものです。英語ではgazing glassと言って
庭の飾りとしてはよくあるもののようです。なお、鉱物としての水晶に
青い色のものはありません)


それは、まさしくムーミンパパの水晶玉です。
青くかがやくこのガラスの魔法の玉こそ、庭の中心で、ムーミン谷の中心であり、
全世界の中心なんです。


パパはうんと悲しい気持ちを盛り上げてから(それがパパの儀式なのでした。
嬉しい時も悲しいときも、常に気持ちを盛り上げることがパパには重要なのです)、
ガラス玉を覗き込みます。ガラス玉は魚眼レンズのように、ムーミン谷全体を
球体の中に写しこんでいます。ムーミン谷にいる者は、皆この中に小さく小さく
写りこむのでした。


ムーミンパパはそれがすきだったのです。
これを見るのが、ムーミンパパの夕がたの遊びだったのです。
それを見ると、家族のみんなが、ムーミンパパだけの知っている深い海の底にいて、
自分はみんなをまもってやる必要があるのだと、ムーミンパパは感じるのでした。


パパは自分のことを偉大な存在だと感じるのが大好きです。
輝いていて、皆に見上げられるような存在でありたいと思っています。
ちょうど太陽のように。素の自分では思うように人の上に立てないと感じると、
パパはこうして空想の中で他人を小さく小さくして、自分が上になろうとします。
ガラス玉が他の何色でもなく「青」だったのは地球の暗喩なのかもしれません。

海の青をしたガラス玉に閉じ込められた家族を、その「外」から見守るというのは
自身を宇宙に置くということです。獅子座男のパパのことですから、
地球を見守る存在になるというのは他でもない「太陽になる」ということです。
間違っても「月になる」ではありません。

庭の片隅でひとり「わしがお前たちの太陽だよ。わしが守ってるんだからな」と
悲しい空想をしているところに、またしてもパパを落ち込ませる事件が起こります。
ムーミンママがベランダにランプを点したのでした。日の長かった夏の間は、
ランプが点されることはありませんでした。パパのガラスの地球と、
それをやさしく包んでいたパパの空想上の太陽は、ママのランプの光に
あっさり負けてしまいました。もうガラス玉が青く輝くことはなく、
一家の中心、この世の中心はママのランプになってしまったのです。

ママは言います。
「日がみじかくなってきたから、ランプを使いはじめる時期だと、
わたしは思ったの。」パパは、自分以外の者が「わたしは思う」なんていうのが
そもそも気に入りません。しかも、ランプを使い始めるということは、
夏が終わったと認めることです。パパの脳内では「夏=自分」でもありますから
これは死活問題です。

パパはママに問います。
「それでは、おまえは夏をおわらせるんだね。夏がほんとうにすぎるまで、
ランプはともしてはいけないのだぞ」パパはこの問いに乗せて、
本当は別のことを問いたかったのです。

日長の夏から、夜長の秋になること。
太陽=父が主役の夏から、月=母が主役の秋に季節が交代すること。
(当番に言わせれば、ムーミン一家の中心はいつでもママ=月であって、
パパ=太陽が中心だというのはパパの願望にすぎないと思うんですけどね)
それでいいのか?わしの時代はもう終わりなのか?家族にとって、
わしはもう要らないトロールなのか?

それを知ってか知らずか、ママはしずかに答えます。
「ええ、もう秋がくるんですもの」

パパはむなしく抵抗します。「うちによっては、
ランプをつける時期をきめるのは、そこのうちの父親なんだが…」

ランプをつけるかつけないか。火事を消すか消さないか。
そんな小さなことで拗ねるのか!と思ってしまいますね。
しかしパパにとっては自分の行動は自分の気持ちを盛る器、
自分のいる世界は自分の素晴らしさを披露するための舞台です。
どんな小さなことも、パパにとっては「そんなこと」ではないのです。

自分、自分、自分。どこまでいっても自分が中心でありたい。
輝かしいものとして崇められたい。頼られたい。皆の上に立ちたい。
でも家族も時の流れも自分の期待を裏切る。この自分を置き去りにして
どんどん先へ進んでいってしまう。ムーミンパパはそう思っています。

なんだか、既に大きな息子のいる立派なお父さんの悩みとは
思えないような悩みだと感じませんか。当番はそう感じます。
まるで甘やかされて育った子供が、大人の世界への入口で
壁にぶち当たっているみたいです。だから当番は
「パパの中年の危機は、中年の危機と呼ぶにはあまりにも若い」
と言うのです。実年齢こそ、人生の秋にさしかかっていますが、
悩めるムーミンパパの精神年齢は良くも悪くも若いのでした。

夏を終わらせること、秋が来ることを認めることさえ嫌で
まだゴネているパパを、更なる悲劇(パパ視点での)が襲います。
ムーミントロール一族が忌み嫌う氷結体質の怪物・モランが
ランプの光に誘われてムーミン屋敷の裏庭にやってきたのです。

ランプをつけることにブツブツ言っていたパパは、
この事件ですっかりランプへの反感を吹き飛ばしてしまいます。
即座に脳内ヒーロースーツを装着して「わしが守ってやるからな、
お前たちは怖がらなくていいんだぞ」と息巻くムーミンパパ。

モランがやってきたことで、ランプはパパの夏とパパの誇りを
追い払う秋の使者ではなくなりました。家族の平穏の象徴、
パパが守ってやらなければ消えてしまう被保護者になったのです。
それとも、守ってやらなければ消えてしまうのはパパの誇りで
あったのでしょうか。

しかし家族の反応は薄いものでした。別に怖くはないし。
パパ大袈裟だし(笑)。昼はボヤ事件。夕方はランプ事件。
そして夜にはモラン事件。パパがいちいち騒ぐのも、
家族が醒めた反応しかしないのも、判で押したように同じです。
一日に三度も落ち込まされて(いや、勝手に落ち込んでるだけ)
パパ、もうボロボロです。

パパの不機嫌をちびのミイは笑い、ムーミントロールは不審に思います。
そしてムーミンママは、突然謎めいたことを言い出します。

「ここだわ。わたしたちが住みついて、
すばらしい生活をしようとしている場所は。
いろいろめんどうなこともいっぱいあるだろうけど…」

(中略)

「これがパパの島なの。
パパはここでわたしたちをやしなおうとしているのよ。
わたしたちはここへひっこして、一生そこでくらして、
なにもかもあたらしく、ほんとうにふりだしから始めるのよ」


パパは何も言わないのに、ママの言うことは妙に具体的です。
ママは、パパが考えていることをテレパシーででも感じたのでしょうか。
それとも、孤島への移住計画は、パパの機嫌を直すために、
ママが企てたことなのでしょうか(だったとしたら大変です)。

ママがパパの計画を見抜いたのか、それともママが全ての黒幕なのか。
いずれにせよ、パパはその計画に乗りました。ムーミン谷にいては、
もう自分が一家の中心になれないと思ったから。この家族と一緒である限り、
どこにいても状況は同じような気がしますけどね。ムーミン谷だって、
お客さんが来ない日は陸の孤島みたいなものじゃないでしょうかね。

たぶん、ただの孤島だったらそこまでパパの気を惹くことは
なかったでしょう。問題は、その島に灯台があったことです。
これがなければ、パパがあれほど暴走することもなかったでしょうに。
炎と光の管理者であることに己の誇りのありったけをかけているパパは、
孤島の灯台守になることで自信を取り戻そうと考えてしまったのでした。

さあ、やっと『パパ海』の第一章が終わりました。
記事ふたつ分の長さを使って本一冊の十分の一しか紹介できないとは、
なんて効率の悪いことでしょう。第七部に続きます。





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最終更新日  2010.09.06 03:37:49



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